第2話 鑑定

「これより鑑定を行う! 対象となる子供たちは並びたまえ」


 神官様の声に従い、全員がピシっと並ぶ。


 この神官様はお年を召していて、毎年、30年以上もこの村に鑑定に来ているベテラン神官様だ。


 何故だか分からないが僕が最後になってしまったみたいだ。


 一人一人スキルの発現が行われていく。スキルが発現する時、その力の強さによって発せられる光の量が異なる。


 僕と同じ年の子がどんどん鑑定されていく。そのどれもが、小さな光で『農業』や『狩猟』などのスキルを得る。村にとってはそれらのスキルの方が実用性が高く喜ばれたりする。今、大人はどんどん都市へと流れて、村には働き手が少ない。『農業』スキルを発現された所の親御さんは泣いて喜ぶほどだった。


 次はクリスの番となった。


 いつものクリスの様子とは違い、少し緊張しているようにも見える。それもそうだ。このスキル鑑定で人生が決まるといっても過言ではないのだから。それ程までにスキルとは人の人生を左右する。


 神官様が手をかざす。


 まばゆい光がその手から発せられクリスへと収まった。


「おぉ!! これはっ!!」


「どうかされましたか? 神官様」


「君、名前は?」


「く、クリスです」


「おめでとう、クリス君。君は神様に好かれたようだ。君のスキルは『剣聖』だ」


「「「うぉぉぉぉぉー!!!!」」」


 村に歓声が埋め尽くされる。


 『剣聖』、それは世界でも数人しか与えられないと言われている最上級スキルである。『剣聖』のスキルを持つ者は例外なく大成すると言われているスキルだ。過去には国の軍部のトップになったもの、有名な冒険者として名を馳せたものもいる。


 村から『剣聖』を出したとなればその村は一躍有名となり、『剣聖』生誕の地として栄えていくことになる。それゆえの歓声だ。


「マルク、ミシェル! 俺やったぞ!」


「凄いよ、クリス! やったね!」


「良かったじゃないか、クリス。これでお前は間違いなくこの村の英雄だぞ?」


「はははっ。そうだな!」


「オホンッ! まだ鑑定は終わっていないぞ。次の子は前に」


「ミシェル、行ってこい!」


「うん!」


 神官様が慣れた手つきで手をかざす。


 再び、まばゆく優しい光が発せられ、ミシェルへと収まる。


「まさかっ! こんなことがあるのか!?」


「神官様、これは!?」


「あぁ、君は『聖女』のスキルを授かった。これは奇跡と言ってもいい。直ぐに馬車の手配を!」


 神官様は興奮した様子で、お付きの者に手配を指示する。それもそうだ。一つの村から最上級スキルを持つ者が二人も出た。それは、奇跡としか言いようがない。


「待ってください! まだあと1人鑑定する人が残っています!」


「そうです!」


 クリスとミシェルが神官様に抗議をする。今の神官様には、僕の鑑定など小さなことに過ぎなかった。


「あ、あぁ。すまない。君、出てきてくれ」


 僕は神官様の前へ出る。


 手をかざされた直後、手からまばゆい光が発せられた。まさか僕にも!?


「これは!!」


「神官様、もしかして......」


「いや、君が授かったスキルは私も見たことが無いスキルだ。長年神官として鑑定を行ってきたが、こんなことはなかった。君のスキルは『装備の心』だ」


「『装備の心』?」


「君、名前は?」


「マルクと申します」


「君はアルフリードの...... スキルの詳細については、紙に記して伝える。ここで話すのは君自身にも得じゃないだろうからな」


「分かりました」


 『装備の心』、それが僕のスキル。どんなスキルなのかイメージもつかない。装備に関してのスキルなのかもしれないという位だ。


「では、これにてスキル鑑定を終了する。『剣聖』と『聖女』を授かった子供には王都の学校に来る義務が課せられる。発つのは今日の夜だ。それまでに別れを済ませておきなさい」


「うぉぉぉぉぉー!!!! すげぇな!!」


「クリスとミシェルが王都行きだあ!!!!」


 村は大騒ぎで神官様も混ざっての宴会となった。


 クリスとミシェルが皆に持ちあげられてあたふたしていたのは新鮮だった。あの2人には冒険者にはなって欲しくない。死んでほしくないのだ。冒険者は過酷な仕事。死ぬことなんかザラだ。失う悲しみはもう味わいたくない。


 夜、神官様に呼び出され連れ立って閑静な宴会場の外に出た。


 恐らくは僕のスキルについての話だ。


「君はマルク君だったね」


「はい」


「君の話は、君のお父さん、アルフリードからよく聞いたものだ。かわいい息子だっての」


「何故僕のお父さんを知っておられるのですか?」


「それはの、アルフリードを鑑定したのも儂だからじゃ」


「お父さんを鑑定されたんですか?」


「あぁ。そして、今日みたいに呼び出したものだ。何せ君のお父さんも前例のないスキルの持ち主『装備の心』の持ち主だったからの」


 お父さんが僕と同じスキルを?? スキルを受け継ぐなんてこと...... 聞いたことが無い。


「ホホホッ。同じスキルを持っている事に驚いたかの? だが、事実じゃ。儂は一つたりとも嘘はついておらん」


 嘘をついている様子は伺えない。神官様の年齢を推察するに十分あり得る話だ。



「し、神官様! 僕のお父さんはどんな人だったんですか......?」


「儂の事はステバンと言ってくれ。そうじゃの、『この世界で最もかっこいい男』とマルクに言っておいてくれとアルフリードには頼まれたかの。君はまだ幼かっただろう。記憶にもあまり残っておるまい。どれ、その時の話を少ししてやるか。いいじゃろ。アルフリード、それぐらいは許しておくれ」


 そうしてステバンさんは遠くに思いを馳せるように語り始めた。





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