第45話 架空の想像上の理想の人

 義徳に送ってもらいアパートに戻って、フローリングに大の字になって、目を閉じた。

瀬原田センパイの、別れ際のニコッとした顔が浮かんできた。


マジで大好き!!


でも、この4年間、恋愛ってものをしてないから、なんてゆうのか、どうやったら恋愛が始まるのかもわからない。


「センパイのことが好きです!僕と付き合ってください!!」

って、告白したとして……

たとえば……俺ら5人が、一斉に付き合ってください!お願いします!って手を出したら……

センパイは、俺じゃない誰かの手をとるだろうな……

って思ってしまう。

しかも、ライバルはあいつらだけじゃない。

朝陽建設の同僚たち、社長の次男。

その他諸々、センパイを狙ってるやつは大勢いる。


いやいやいやいや、それでも、

今 動かなかったら、後悔するだろう。

だって、後悔なんて、ずっとずっとしてきたんだから。


 高校の時、若保先輩と楽しそうに笑って話す瀬原田センパイを、遠くから盗み見ることしかできなかった。

瀬原田センパイの話す言葉に、耳をすました。


「恭ちゃん、昨日の映画おもしろかったね~」


「この間、恭ちゃんが似合ってるって言ってくれたスカート、まだ在庫あるかな~。土曜日に買いに行かない?」


部活中は、私語のおしゃべりはしてなかったけど、部活終わりで弓道場を出てから、瀬原田センパイはあふれ出すように、 

“”恭ちゃん!“”って話し出す。


部活を引退してからも、クラスが違う2人が、昇降口で待ち合わせをして 帰って行く姿をよく見かけた。

優等生の2人の付き合いは、先生方も認める、高校生らしい爽やかな交際だった。

あ、2人が性行為をしていたのかは わかんないけど。

2人は付き合っていても、学業を疎かにすることもなく、常に成績も優秀だった。

だから、誰もが認めるカップルという感じ。


そんな2人を、ただ遠くから見ているだけ。

挨拶するだけで、話すこともできなかった。


センパイが高校を卒業して、会えなくなった。


会えなくなって、

このまま忘れていくんだろって思ってた。

だけど、忘れることはできなかった。

いや、忘れていったのかな。

瀬原田センパイは、もう俺の中で、

“”架空の 想像上の 理想の人“”

という感じになっていた。

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