第43話 社長の次男って人

 朝陽建設の本社ビル。

5階建てのデカい建物だ。

どこから搬入するのかもわからなかったから、とりあえず俺だけ車から降りて、受付けで朝陽主任を呼んでもらった。

すぐにまいりますので、お待ち下さい。

って言われたけど、だいぶ待たされた。

15分後、エレベーターから降りてきて、俺の方へ歩きながら、早かったな~と、迷惑そうな顔をした。

何が早かった?

俺らが来たのが早かったってこと?


「どこから搬入しますか?車は、目の前に停めちゃってもいいですか?」

俺がそう言うと、それには答えずに、外へ出て行った。


「そこさーー!!邪魔だから、そっち停めて降ろしちゃってよ~」

と、義徳にむかって大きな声を出し 指を指した。


これは……だいぶ感じ悪い!!

この人が広報とかやってんの?ダメじゃね?

朝陽建設、イメージ悪いですよ~。


俺は、ちょい走って車まで行った。

義徳は、車から降りて、スライドドアを開けながら、

「だろ?」

と言った。

“”だろ?“” で通じるところが 俺らの間柄か。


あいつ、バカだろ?

感じ悪いだろ?

あったま、わりーだろ?

などなどの、義徳が言いそうな “だろ?“ が

頭に浮んだ。


「だな」

と笑って答えながら、台車を2つ出して、台車にダンボール箱を2個重ねて載せた。

結構、重い。


とりあえず、4階の会議室に運んで、と言われ、エレベーターに乗って、朝陽主任の後ろを台車を押して歩いた。


「どっちが息子?」

「はい?」

義徳と俺は声を合わせた。

「だから、どっちが桜花堂の息子なの?」

「あ、僕ですが」

と、義徳が答えた。

うしろを振り返り、ふ~んと言った。

「うちの会長がさ、桜花堂のきんつばがすごい好きで。まぁ、桜花堂の和菓子何でも好きなんだけど。

じゃ、紅白まんじゅう どうせだから、桜花堂で頼もうって思って、オレ電話したら、即断わられてさ、部下に店 行かせたけど、ダメだって帰ってきて~、そしたら瀬原田さんが、あんたの先輩なんだってね。

そんな話を聞いたから行ってもらったのよ。

瀬原田さんが行ったら、注文出来たって。

あははっ!やっぱ美人は違うよな~。こうゆう時、役に立つ」


ものっすごくムカついた。

センパイのことを、ただの美人な人って感じで、見下しているような気がした。

だけど、今 俺は、桜花堂の作務衣を着て、桜花堂の者としてここにいるのだから、今キレんのは

いけないよな。


「あの、なにか、思い違いをしていらっしゃるようですけど、」

と、義徳が低い声で、喋りはじめた。

あ、これ、怒ってんな。

「瀬原田さんが先輩だから、とか、美人だから、とかで注文を請けたわけじゃないですよ。

あなたや、部下の方とは違って、礼を尽くしてくれたからです」

「れいを、何?」

「基本、誰が来たって、200個の注文は本来

うちは請けないですよ。工場の大量生産品とは違いますからね。まぁ、多くて50とか。

瀬原田さんは、俺の先輩だから なんてことを言って来たわけでもないです。

デカい植木鉢の植物を両手で抱えて店に来ました。

無理を承知でお願いいたします、と頭をさげてね」


桜花堂には、季節ごとに売られるお菓子がある。


【秋乃紫】あきのむらさき


先代の亡くなった奥さん、つまり義徳のばあちゃん、が好きだった秋の植物をイメージして、5代目、義徳のお父さんが創った秋の和菓子。


そのモチーフの植物の植木鉢を抱えて、先輩は店を訪れた。


ムラサキシキブ


細い枝に小さな紫色の実がたくさんついていて、柔らかく枝をしならせる。花よりこの美しい実を観賞するのだと。

ばあちゃんが好きだったムラサキシキブを、先輩は何で持ってきたのか。


【秋乃紫】が、ムラサキシキブのイメージだったので、お店に飾るか、おじゃまでしたら、お家で飾って下さいと先輩は、言った。


「桜花堂に対して、敬意を払って頂いたので、うちとしても200個の注文を承ったってことです」


「はぁ」

だから何?という様なポカンとした声を出した。


マジでアホなんだな。

これは、俺の感想。


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