第32話 ただの同乗者

 だいぶウキウキして、待ち合わせ時間よりも早くコンビニに着いてしまった。

ここからだと、国道に出て、すぐに高速に乗って、道すいてれば〇〇アウトレットモールまで2時間弱ってとこかな。

センパイの車、何に乗ってるのか聞いとけば良かったな~。

ETCついてっかな?

高速代ETCだとしたら、俺は、ガソリン代払って、昼飯代と、お茶するならそれも払おう。

ってか、センパイが買いたい服を、

『俺が買います!』って払うのは どうだ?

付き合ってるわけでもないのに、そんなん おかしいか?

もう、よくわかんねーから、有り金全部持ってきた。

さすがに、それ全部使ったら、給料日までどうやって生きて行こうってなるけど……

でも、いざとなったら、母親に食べる物だけ泣きついたっていいだろう。

よし!!

あとは、センパイが来るのを待つだけだ!!



「かんかーーん!!」


聞き慣れた声が聞こえて、そちらに顔を向けた。


なんで????


赤いマーチの運転席の窓から、湊が顔を覗かせて手を振っていた。

助手席には、瀬原田センパイ。


なんでだよ?

どうしてこうなってんの?

《2人で》 じゃ、なかったのか……


天国から地獄って、こんな感じなのか……

ってか、瀬原田センパイとお出かけするのは変わりないんだから、地獄ってことはないか。

でも、2人で!って思っていただけに、落胆の度合いがかなりだ。


「おはようございます」

「神田くん、おはよう!ちょっと遅れちゃった、ごめんね。うしろ乗って~!」

センパイにそう言われて、失礼しますと後部座席に乗り込んだ。

うしろ……

ハンドルを握るのは、湊。

その助手席に瀬原田センパイ。

俺は、ただの同乗者って感じ。


「高速で行くんだよね?」

「あ、そうですね。下道でも行けますけど、時短の方がいいと思いますね。これ、ETCついてましたっけ?」

「付いてるはず」

「じゃ、高速のっちゃいますね」


完全に、ただの同乗者……

ってか、こうゆうことになってる 《いきさつ》

の説明とか 俺になんもないの?

なんで湊もいるんだよ!!

俺がおととい、センパイを誘った時には、2人で行くって流れじゃなかったか?

そのあとに、やっぱり、俺と2人は気まずいって、湊を誘ったの?

はぁ……

なんか、すごく悲しくなってきた。

ものすごいウキウキしてた自分が恥ずかしい気がした。


「神田くんは、普段どこで買い物してるの?

あ、服とか?」

センパイがうしろを振り返って、俺に聞いてきた。

「あ、近くのイオンです」

「イオンか~。近くていいよね。駐車場タダだから、私もよく行くよ~。坂北くんは?」

「俺は、ほんっと滅多に服って買わないですね。行っても ユニクロとかかな。

なんなら、親が買ってきたTシャツとかを普通に着ちゃってますから」

「あはははは!そうなの~?昔、よくスヌーピーのトレーナー着てたよね~!あれ、可愛かったなぁ!!」

「いつの時代の話 してんすか?」



俺は、今日、こうやって、1日かけて、なぶり殺しにされるんだな……


“”センパイの彼氏の座に1番近いのは、湊“”


どう転んでもおまえには手が届かないよって、

言われてるみたい。


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