第24話 恭ちゃん

 車の中で、瀬原田センパイは寝ぼけたように、


「恭ちゃん?」

と言った。


「いえ、…… 坂北です」

と、隣の湊が言った。


「あ、そっか、そうだったね~。そっか、そっか。みんな、ありがとね~。大町くん、運転ありがとう」

そう言って、またウトウトしてしまった。


“”恭ちゃん“”  か…………

そりゃ、そうか。

10年間、瀬原田センパイの隣りにいるオトコは、若保先輩だけだったんだ。

眠りから覚めて、最初に目に入るオトコは

若保恭輔だけだったんだ。

今はまだ……

そうだよな……

だけど、 “”恭ちゃん“” っての、ズキンっとした。

はぁ……

俺じゃダメか……

ちょっと、話したいこともいろいろあったけど、

なんとなく、俺は黙っていた。

誰も何も喋らなかった。


30分くらい車を走らせて

「とりあえず、湊ん家 方面に向かってるから、先輩んち曲がるとこら辺きたら、おしえて?」と、義徳が言った。


そこ右、次の四つ角左

交番の灯りが見えた。

ってことは、向かい側のこの家が、瀬原田センパイんちか。


「先輩!着きましたよ。お家に」

湊が声をかけると、センパイは意外とすぐに目をひらいた。

「みな君、ありがとね。大町くん、気をつけて帰ってね~。ありがとう!」

そう言って、湊と一緒に車から降りた。


「じゃ、おやすみ!」

と、湊が手をあげて、

「じゃ~な~!」

と、義徳が車を発進させた。


ってか、

“”みなくん“”って言わなかったか?

“”みなくん“”って、“”みなと“” のことなの?

そんな風に呼ぶの、初めて聞いたけど。



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