第23話 桜花堂
「その人をどうするつもりですか?」
湊が、車から降りて、悠然と歩きながらそう言った。
俺のところまで来ると、俺の方は見ずにデカい男を見上げながら、俺に手をのばした。
その手をつかんで立ち上がりホコリを払った。
「あなたは、その人のなんなんですか?」
湊がそう言うと、
「彼氏だよ!ってか、なんだよ!おまえら」
「彼氏ってのは、ウソですよね。まぁ、朝陽建設の方だってのは、わかってますけど」
「えっ!」
朝陽建設って言われて、一瞬 動揺してるのがわかった。
ひらりんと、義徳も車から降りてきた。
俺ら4人と、瀬原田センパイをお姫様抱っこしたデカい男が向かい合う形になった。
「その人をどうするつもりですか?」
湊が、また同じ質問をした。
「彼女だいぶ酔っ払っちゃってるから、家まで送ってってやろうと思って。タクシーでさ」
「寝てますけど、彼女の家知ってるんですか?」
「は?もちろん知ってるよ」
「〇〇町の保育園の真ん前ですよ」
「えっ?あ、そう!そうだよ。もちろん知ってるよ!彼女の家なんて」
「その、彼氏って設定の芝居もうやめませんか?彼女の家の前に保育園なんてないですよ」
「ああ!!」
カーッときて、湊を殴りかかりたいような感じだったけど、センパイをお姫様抱っこしているから、手が出せないって感じ。
「ってゆうか!なんなんだ?おまえら!ほっとけや!!」
「俺たちは、瀬原田先輩を迎えに来ました。
9時までの飲み会と聞いていたので」
「は?瀬原田先輩って、瀬原田ちゃんの後輩なの?後輩がいつまでも瀬原田ちゃんのケツ追いかけ回してんじゃねーよ!!」
「とにかく!俺たちは、今日、瀬原田先輩を送り届ける約束をしているので、連れて帰ります」
「そんなこと言って、車で山ん中でも連れてって、4人で輪姦そうってんじゃね~の?」
「あなたの発想と一緒にしないで下さい。こっちだって店の車で来てんだから。とにかく、渡してもらえます?」
義徳が珍しく苛立った感じで言った。
「えっ?桜花堂?桜花堂なの?」
車の横面に でかでかと書いてある文字が目に入ったようで、そう言った。
「そうですが、なにか?」
「じゃ、西高の弓道部?真島の同期?」
へ?
なんで?どっから真島の名前がでてきたんだ?
「そうですけど、なんで?」
ひらりんがそう言うと、そのデカい男は、同じくらいデカい ひらりんの前に来て、はい と、
瀬原田センパイを渡した。
えっ?
あっさり?
話の展開が見えなかったけど、とはいえ無事に
瀬原田センパイを奪取することができた。
「真島の顔をたててやるかな」
「話が見えないんですが」
と、湊が言った。
「俺、大学 真島と一緒でさ、設計デザインのゼミも一緒だったんだ。
あ、一浪してっから、俺の方が1個年上なんだけどな。
まぁ、真島にはマジで世話になったからな。いろいろと。
西高の弓道部の話をよくしてたよ。
あと、桜花堂の話。桜花堂のきんつばが超旨いとか、まんじゅうが超旨いとか。
一回 お取り寄せしたって、ゼミのみんなに
いちご大福配ってくれて、みんなでご馳走になったよ。
で?キミが6代目?」
そう言って義徳の前に立つと、両手でギュッと義徳の手を握ってニコニコした。
さっきまでの、険悪なムードが一転してるんだけど。
「いずれ、です。今はまだ修行中です」
「そうなんだ~!いや、でも、就職でこっちへ帰ってきて、俺も自分で桜花堂の和菓子買いに行くようになったんだ!真島オススメのきんつば!マジで絶品!!」
そう言いながら、義徳の手を握ってブンブン振っている。
「じゃ、瀬原田ちゃんを よろしくね~!
ってかさ、今日 瀬原田ちゃんモテまくり!
すげー誘われてたよ。
マジで危険な感じだったから、俺レスキューしたんだよね~!アハハ!」
レスキューじゃ ねーだろが?
ぬけがけして、早めに連れ出したくせに!
ラブボへ連れてく気 マンマンだっただろうが。
「はい、しっかり家まで送り届けます。じゃ、失礼します」
そう挨拶をして、俺たちは車に乗り込んだ。
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