第12話 なにものでもない

 あいつらとは、なんでも腹を割って話せる間柄と思っていた。


瀬原田センパイとの再会で、好きになったから!!って、俺にすぐに言ってくれた ひらりん。

おとすからって宣言した、真島。

プロポーズするって言い出した、義徳。


昔から、この3人は割と自分の意見をはっきりと言う。


さっきまでのラインのやりとりを、改めて見てみた。


『先輩を、1番理解できるのは俺だと思うな』

か……

湊……

そんな気もする。


センパイの隣りにあいつらを1人ずつ置いて、想像してみる。


ーー ひらりん ーー

ひらりんは、身長185センチでガッシリしててガタイのいい人。

大学では、アメフト部に入ってやってたから、パワー系だ。

今は、中学校の先生をしている。

体育の先生。

元気だし、明るいし、面倒見が良い。

気づかいもできる人だ。

センパイは、160あるかないかくらいだから、身長差が結構あるな。

2人が並んだところを想像してみる。

あ、でも悪くない。



ーー 義徳 ーー

義徳は、頭の回転が速い人。

ポンポンと言葉が出てくる。

手先が器用な人。

実家は明治創業の和菓子屋さん、桜花堂。

桜花堂の6代目にいずれなる人。

高校卒業後、専門学校を出て、今はお父さんに教わりながら和菓子職人の修行中。

義徳は、美術が得意で、絵もうまかったし、紙粘土だったか何かで作った像とかも凄かった。

なにかの賞をもらっていた。

和菓子もすごいものを作れるようになるんじゃないかな。

義徳が言っていた、『桜花堂のお嫁さん』

瀬原田センパイなら、申し分ない。

6代目のお嫁さん 若女将。

すごく、お似合いな気がする。



ーー 真島 ーー

真島はイケメン。

いつも彼女が切れ目なくいる。

昔からほんとによくモテる。

それを否定しない。

自分にも人にも正直な人。

女の子と付き合う時も、本気じゃなくて、遊びね!とか言っちゃう、

でも、遊びでもいいんだって女の子は意外と多い。

基本、優しい男。

今は、東京で働いている。

建築設計事務所だと思っているんだけど、インテリアコーディネーターとか、空間デザインみたいな仕事なんだって。

よくわかんないけど、一言で言うと、オシャレな仕事って感じかな。

遊びじゃなく、真剣に瀬原田センパイと付き合おうって思うのなら、美男美女の理想的なカップルになるだろう。



ーー 湊 ーー

湊は、優秀な人。

県庁の職員で、今は県立歴史博物館に出向している。

実家暮らし。

湊は、周りをよく見ている。

高校時代、部長だったってこともあるけど、後輩も気にかけていた。

悩んでそうな人には寄り添って、相談にのってあげたり。

自分のことはあまり話さない。

まぁ、話すタイミングもないくらい、あいつらがペラペラとずっと喋ってるってのもあるだろうけど。

典型的な聞き上手な人。

『中学生の頃から、なんなら小学生から』

か……

湊らしいって気がした。

瀬原田センパイを追いかけて西高に入ってみたら、センパイには付き合っている彼氏がいた。

瀬原田センパイを1番理解できるのは自分だって思いながら、ずっと、それをおもてには出さずにいたのか……



ーー オレ ーー

オレとセンパイ。

誰よりも合わない気がする。

瀬原田センパイに対する想いは、誰にも負けない!って思う。

だけど、オレはセンパイにふさわしい男ではないとも思ってしまう。

オレが一方的に好きなだけで、瀬原田センパイにオレを好きになってもらうのは、ムリな気がしてしまう。

オレは、大学を出て、地元の食品卸売業の会社に入った。

いろんな部署があって大きな会社だ。

俺が配属されたのはお菓子を扱う部署。

そこで、セールスとして、メーカーに行ったり、得意先様に行ったりと、飛び回っている。

入社3年目。

やっと、担当を持たせてもらえて1人で考えて、動けるようになってきたのかなって感じ。

上司に怒られることも少なくなってきた。

だけど、俺は……なんてゆうか、【なにもの】にもなっていない……

そんな気がしていた。


ひらりんのような、【先生】とか

義徳のような、【和菓子職人】とか

真島のような、【インテリアコーディネーター】とか

湊のような【県庁職員】とか。

そんな肩書き。

俺はただの会社員……それだけの人だ……

なにものでもない……

人に自慢できるものも、取り柄も、特技も、なんにもない……




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