琥珀の思案
《思考阻害、完了》
脳裏に浮かぶ〈知識〉〈敵対〉〈鎮静〉の紋。
シャワーを浴びて水滴をタオルで拭い、初めに着ていた白いワンピースを着たオシラは雪のように白い睫毛を揺らし、透き通る琥珀の目を閉じる。
これがなんなのかわかっているはずなのに、何もわからない。ただ、これらが自分以外の周りのほとんどにしっかり作用していることはわかっている。一部の人間には効きにくいようだが、この程度は些事、何が些事なのかは理解に及んでいない。自分の事のはずなのに靄がかった頭ではどこにも辿り着けない。なぜ、頭にずっとこの紋が存在しているのか。
《〝─────〟に対する魅了、続行、破─中、───》
次に浮かぶのは〈情愛〉の紋。ところどころ浮かばないというより、汚れてしまったように見えにくくなっているのはなぜなのか。ふと、ここまで紋を思い出していると、鎮静、情愛、いずれも教師とやらは説明していなかったことを思い出す。
(なぜあの人間は紋を九つしか言わなかった?)
オシラが記憶する紋は全部で十七。そのことを紋について聞かれた際に口にしようとしたら《阻害》と、〈敵対〉〈鎮静〉の紋により舌が内に引っ張られるような、口を噤まされたことを思い出して苦虫を噛み潰したような顔をする。自室のシャワー室の横にあるサイドテーブルに置かれている洗面器のさらに横。そこにある鏡に映った到底人には思えぬほど整った顔立ちを眺め、頭が痛む。
(何か、忘れている気がする)
ずっとこの感覚を抱えている。もしここに落ちてきたことに意味があるのだとしたら、ここにいることで何かがわかると判断して居座っているし、癪だが基本的な規則にも従っている。だが、それが何かはわかることなく時だけが流れる。そのことにオシラはずっと苛立っていた。
部屋の扉をノックする音が響く。何度も名乗るがその度に忘れる、あの赤毛がまた来たのだろう、と確信した。考えることが途端に億劫になり、オシラは重い足取りで扉の方へと歩んだ。
室内の最奥にある窓から一瞬映り込む、黒い影には気づかず。
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