第40話 いろいろと問題はあるんだなーとわかる回
「ライオネン! あれ!」
森から数名の人が慌てふためいて走り出してくる。
その理由はすぐにわかる、巨大な熊に似た魔獣が彼らを追って森から飛び出してきた。
「ヤバいな! 捕まるぞあのままじゃ……」
「ライオネン、向かって!」
俺はとっさに昆布を魔獣に向かって放つ、高速で射出された昆布が熊の魔獣を縛り上げ、その動きを抑える。馬車が現場に近づくと、森の内部でも戦いが起きていることがわかる。
「ツユマル、そいつ任せていいか?」
「もう終わってる」
口や鼻から大量に粘液を流し込まれた魔獣はすでに絶命している。
昆布を収納して今度は探索モードで森の内部へと射出する。
すぐに現場は判明する。森の入り口から少しした場所で2名ほど魔獣にやられて虫の息、魔獣二体を相手に果敢に戦っている戦士がいるが、長くは持ちそうにない。
「頼む、昆布あいぼう!」
虫の息の二人にネクタルを昆布で運んでぶっかけて、二体の魔獣を縛り上げる。
「……生体相手だとツユマルだけでいいんじゃないか?」
「溺死コンボは……エグイよなぁ……」
「結構効かない奴多いの知ってるだろ?」
溺死させた魔獣を昆布で回収して並べておく。
剣士にもネクタルをぶっかけておいたからもう大丈夫だろう。
逃げていた人々にも同じようにぶっかけておいた。
「あれ? 塩にならない……」
「ああ、こいつらは野生の動物ってことだな。これだけのサイズ3体なら結構な金になるぞ」
「フォレストベア……にしてはでかいな……」
「ありがとう! 助かったよ、この恩は必ず返す!」
魔物達を検分していると、どうやらパーティのリーダーらしい一人で果敢に耐えていた剣士が話しかけてきた。
「俺はなんもやってない、礼ならあっちのツユに言ってくれ」
「ツユ殿! 本当に助かった……けが人の治療まで……アレが最近出回っているネクタルという奴か……凄い物だな……それで……その……じつは、お、私たちのパーティはその……毎日の宿代にも事欠いている有様で……」
「なるほど、それで森で出稼ぎしようとしたら失敗したのか」
「お恥ずかしながら……も、申し遅れました。お、私はガスラー、大地の柱のリーダを務めさせてもらっている」
見る感じ20代前半、苦労人なんだろうなぁ……この年で眉間のしわがすごい。
握手をすると、すさまじい腹の音がした。
「こ、これはお恥ずかしい……」
「もしかして他のパーティの皆さんも、あまりご飯食べれてないのですか?」
「……不徳の致すところです……」
また眉間のしわがぐっと深くなる……苦労してるんだな……
ライオネンを見るとお前に任せる、シンサールも同じだった。
「皆さん、ちょうどいい時間なので一緒に食事でもとりましょう。
あと、そちらの魔物は差し上げますので、使ってください」
「い、いや!! そ、そのようなことまでされてしまっては、お返しできるものもないですし……」
「お気になさらず、嫌味に聞こえるかもしれませんが、お金はもう持て余すほどありますので」
魔物達をアイテムバッグにしまって、テーブルやら食事やらをマジックバッグから取り出すと、色々と理解してもらえた。よほどの人間でなければマジックバッグは持っていないらしいからね。
なるべく人目につかないようにするつもりだったけど、あとで口止めしておこう。
「……も、申し訳ない!!」
大地の柱のメンバーは貪るように食事を堪能してくれた。
元料理人としては、人々が美味しそうに食事を食べてくれる姿を見ることはとても嬉しい。
「見たところまだ若いパーティみたいだが、ロンダルギーアにいるってことは結構やり手なのか?」
「実は……お恥ずかしながら我々は二世でして……むしろもっと安全な場所へ行きたくても出られないほうでして……」
「ああ、最近問題になっている奴か……」
ロンダルギーアの歴史も長くなってきて、ロンダルギーアに挑んだ冒険者たちが街に住み着いて、その子供たちが成人した場合、冒険者になろうとしてもハイレベルなダンジョンに挑むこともできないし、周囲の敵も強すぎて、どうしようもない状態になることがあるらしい。
「ってことは、皆親は……」
「ええ、亡くなっています」
その中でも親がいればともに王都の方へ行くなり出来るが、親が亡くなった子供たちが、詰んでしまうことがある。
家も親が死んで住めなくなって、働き口も多くない、仕方なく冒険者になると、強すぎて何もできない、その日の宿、食事もままならないと言った感じだ。
「はじめのうちは親の残した物を売りながらなんとか生活していたのですが……」
「しかし、森は無謀だろ……」
「本当は薬草採取だったんですが……運悪く複数の魔物と出くわして……」
「なんとかならないのシンサール?」
「ギルドとしていろいろ案は上がったのだが、予算が……食糧問題などもあってカツカツだったから……」
「なら、これから変わるかもしれないね」
「具体的にどうすればいいと思う?」
珍しくこういう話にライオネンが突っ込んできた。
「えーっと、まずはそういった親を亡くした子供たちの生活を保障するべきだね。
ギルドでも国でもいいから、集団生活をさせて、そこで衣食住を確保させる。
教育も施して、一般の仕事につけるようにしたり、冒険者として生きていけるよう学ばせる。
冒険者になる場合は熟練の冒険者と組ませて、最低限必要な知識をしっかりと教える仕組みがあったほうがいいと思う。初心者冒険者の犠牲者が多いのはそう言ったことの不足が原因だと思うから」
俺もライオネンとシンサールと一緒じゃなければどうなっていたか……
「素晴らしい考えだが、見返りのない投資はギルドも王も動かないのでは?」
「見返りはあるよ、無碍に亡くなる子供の減少は人口増加の妨げになる。
教育を受けた労働力の増加は国家にとって有益だ。
ギルドの保護を受けた冒険者見習いにはたとえば収益の一部をギルドに収めるシステムを作ってもいい。将来有望な冒険者をくだらない理由で失うのはギルドとしても痛手になる。そういった冒険者を増やしていければ先々の利益になる。
ほかにも色々とあるけど、ぱっと考えてもいくらでも利益はある。
それに、損得をどけても、何の罪もない子供が不幸になることは、不健全だよ国家として」
「ほぉ……ツユはよい政治家になるな」
「時々お前はすごい意見を言うよな……高度な教育でも受けていたのか?」
「うーん、たぶん、ね」
前の世界の知識を少しでもこっちで役立てるならお安い御用だ。
そんなこんなで、結局その後、大地の柱と共に街へと向かうのだった。
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