第39話 到着ロンダルギーア、だけど……な回

 ダンジョン都市ロンダルギーア。


 ロンダルギーアダンジョンの入り口前に作られた都市、冒険者が集う場所に拠点的な物が出来ることは珍しくないが、この国最大のダンジョンであり、未だに踏破者の出ない前人未到の深淵を目指す冒険者が集うことで都市を形成したのはここだけである。


 南の大砂漠、西の大森林、北は大山脈と自然の防壁に囲まれており、魔物の襲来を多く、そういった面でも冒険者たちが自らの成長のためにも長期逗留することが多い。


 我が国の都市ではあるが、多くの冒険者が集まり形成しているため、ギルドによる治外法権的な自治が行われており、国としてもその莫大な収益の見返りとして黙認されている。


 粋でない行動をこの街で起こすことは、冒険者を敵に回す。つまり、この街にいられなくなるので気をつけよう。




 以上、ガイドブックより。




「ライオネンー、粋じゃない行動ってなにー?」




「かっこ悪い、ダサいことって感じだな。自分より弱い奴に威張り散らしたり、せこい犯罪も嫌われるな」




「なにそのヤンキー理論みたいなの、俺ヘタレだからやばくない?」




「ツユマルは今や冒険者の神様みたいなものだから、むしろ名前をばれないようにしたほうがいいぞ」




「へ? なんで俺が神様???」




「……今や冒険者が当たり前に神薬ネクタルを持てるようになったのは誰のおかげだと思ってるんだ……」




「腕を失ったり、深手を負ったり、色々な理由で冒険者を辞めたり、苦労している奴らが五体満足で再び冒険者家業に戻れるようになったり、お前がしたことはまぁそういう奴らからすれば神様みたいなもんだろ」




「うーん、実感がない」




「ハハハハハハハ!! そのほうがツユマルらしい!


 そういうのを笠に着て偉ぶるのも、粋じゃねぇから、そのまんまでいればいい!」




 よくわからないけど、それでいいならそれでいい。そもそもそんなに簡単に性格を変えられるほど大物じゃない。


 馬車の旅は1週間ほど、途中の休憩は家を出すから快適そのものだ。


 お前が馬に乗れればもう少し早く着くんだぞ、と言われたが、ようやくゆーっくりと歩ける程度の俺が他の二人についていけるはずもない。後ろに乗せられて走り出して泣きわめいたら渋々馬車にしてくれた。馬は可愛いが、早いのは怖いのだ。




 途中何度か魔獣や魔物、野生動物に襲われた。




「最低限ロンダルギーアにたどり着ける程度の実力がねーと、ダンジョンには挑めねぇ」




「辺境に向かうこの道は、相手もいい獲物が通るって分かってるからな」




「柵に鳴子まで用意してる冒険者なんて俺達ぐらいだろうけどね」




「ま、ベテランだからな楽できるところは楽していこーや。


 感謝していますぜツユ!」




 一応ツユマルって名前が広まると騒ぎになるから二人ともツユって呼ぶようになった。


 ライオネンとシンサールはもうどうしようもなく知られてるからそのままらしい。


 そんな二人と一緒にいたらどっちにしろ目立つじゃないか、とも思ったけど、ネクタル製作者として目立つのは本意じゃない。




 途中何組か同じような冒険者に出会って、二人は握手したり先輩として対応していた。


 その姿を見ると、いつも飲んでる時はそう見えないが、立派な冒険者に見えてくるもんだから不思議だ。




「そういえば、魔法使いとか僧侶? 治癒師的な人はパーティに入れないの?」




「いらねーだろ。傷は薬で治るし付与呪文つきだ。


 俺らの技量なら魔法が有利な敵だって問題なく倒せる。


 むしろ俺たちの速度についてこれる後衛職の人間なんて……たぶんいないぞ?」




「俺の薬が職を奪ったりしているの?」




「そんなことはない。魔法が有利な敵には魔法使いがいれば楽になる。


 治癒師だって大量のポーションを持ち歩けない普通のパーティには必須だろう。


 うちはツユマルが持つマジックバッグがあるから、異常なんだよ」




「頑張って裏ダンジョンを攻略した甲斐があったね」




「結果としてはな、俺はあの時自分が死んでもお前を外に出すって結構腹をくくったんだが、ほんとツユマルはすげーよ」




「いや、皆がいたからこそ……」




「いいさいいさ、お前はそのままでいてくれ!」




 なんだかよくわからないはぐらかされ方をした。


 そんなこんなで、おっさん三人の旅は続き、とうとうロンダルギーアの街へと到着した。




「おおお……凄いなこれは……」




 巨大な山というよりは巨石の根元にダンジョンが大口を開けており、その穴を囲う様に雑多な建物が所狭しと並んでいる。盆地のような地形のせいで、町全体が一望できる。




「ちょっと向こうは鬱蒼とした森が地平線まで続いていて、その横に砂漠が広がっているって、めちゃくちゃな気候だな……」




「大森林と大砂漠、ついでにあの岩を超えた先には山が連なっており、その先は極寒の地だ」




「我が国北西の端に存在して、ここから先は未開の土地。


 そんな場所にダンジョンがあるのもなかなか浪漫があるだろ?」




「凄まじいスケールのダンジョンなんだな、あまりの大きさに驚いたよ……」




「明日には実際に見られるが、あれだけ巨大な穴が開いていながら、ダンジョンの入り口は一か所しかない、そしてその入り口前にギルドがある」




「基本的にダンジョンの入り口に近くなるとランクの高い冒険者向けの店が多くなる。


 俺たちもAクラスになったからギルドからすぐそばの宿を取ってある」




「そういうのがあるのか……クラスが高いって偉そうにすると……」




「過度にそう振舞えば町から拒絶される。ま、お前には縁のない話だろうがな」




「なんにせよ、さっさと宿へ行こう……どうも嫌な風が吹いている」




「……お前の勘は良く当たる……急ぐか……」




 ライオネンが馬に鞭を打って馬車が加速すると、進行方向左前方に広がる森から、爆発音が響いた。




 トラブルの予感……


 


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