第38話 全ての準備が整う回

「ライオネンさん、こんな場末のギルドにこんなもの持ち込まないでくださいよ!」




「なんだよ、だから数日後にお宝持って帰るから本部から応援呼んでおけって言ったろ?」




「数日前に言われても、ここから王都までは数日以上かかるんですよ」




「失礼する。本部から応援に来るように言われたのだが……」




 ベテラン冒険者とも見紛う渋いおじ様たちがギルドへ入ってきた。




「まぁ、ライオネンはそうだろうと思って事前に連絡は入れておいた」




 なるほどこれが元王都ギルドマスターの先見の明か……




「すまんな、無理を言って、まぁ本部にいても見られないような物持って帰ったから許してくれ」




「マス……、もう冒険者に復帰されたのですねシンサール殿は。


 なるほど、かなりの逸品ですね。


 これを見せられたら、文句を言っていた本部の奴らも黙らざるを得ませんな」




「次は、前人未到のロンダルギーアを目指すぞ」




「……貴方なら、成し遂げるかもしれませんね」




 なにこの二人カッコいい。シンサールもなんかいわくありげな過去のつながりを演出して……




「ああ、紹介が遅れたな、本部の鑑定士でもあり、元Aクラスの冒険者だ。


 ミデス=ライブレ、良い目と腕を持ってるからここでも力になると思う」




「よろしく」




「よ、よろしくお願いします」




「噂には聞いてるぜ、百識のミデスだろ?」




「風刃のライオネンに覚えていただいているとは光栄だ」




 俺はヘコヘコ握手したのに、ライオネンはなんか、カッコいい握手している。差別だ。


 なんかギルドの職員たちもミデスさんを尊敬の目で見ているし、これが中年の渋みってやつか!




 とりあえず宝の鑑定はギルドに任せて、消耗品の補充など、やることはいっぱいある。


 次は本番、そして、今回のダンジョンとは比べ物にならないほど巨大なダンジョンに挑むことになる。


 現行で最も長く、深く潜ったパーティはパーティ上限の12名が3パーティ合同で潜った時らしい。


 ロンダルギーアのダンジョンは、一階層が巨大で、一階層の中に浅いエリア、中盤エリア、終盤エリアと敵が強くなる。


 そんな階層が、判明しているだけど7階層……


 それぞれが三段階敵が変化するので、通常のダンジョンの20階層級の敵が出る……とはいかず、50階層レベルの敵が出てきたそうだ。


 長丁場の連戦、終わりが見えないダンジョン、結局その限界点が7階層になっている。


 


「それで2か月かかっているんだよね?」




「ああ、そうだ。ダンジョンに2か月ってのは、はっきり言って異常だ。


 安全マージンを最大限に取ったからこそのスピードだがな……」




「俺たちの目的は、人捜しだ。それだけを目的にすれば、俺の能力が最大限に生かせるはず」




「ああ、そうだ。頼りにしている」




 なんか、ライオネンが急に真面目に見つめてくると調子が狂う。


 俺たちの目的は、人捜しだ。


 ブレイドさんとヒーロさん。ライオネンとシンサールの元パーティメンバー。


 この二人の救出が今回のロンダルギーアへ向かう目的。


 敵と無理に戦う必要も、宝を求めて探索する必要もない、昆布による探索で人を探し、そこに真っすぐ向かえばいいのである。


 


 あと、ダンジョンの豆知識として、ダンジョンの生まれ変わりというものがある。


 ダンジョンは3か月に一度の新月の夜に、中身が一新する。


 主には内部構造の変化、一部の強力な敵、主にボスの復活、宝箱の補充、制覇報酬の回復が起きるらしい。


 新月の夜にダンジョンにいる冒険者は、突然異なる場所に飛ばされてしまい非常に危険だ……


 普通の冒険者はそれを考慮して、出来る限り新月の夜を跨がない計画を立てるのだ。


 そのせいもあるので、数か月にも渡って攻略にかかるダンジョンはおかしいのだ。


 それが、ロンダルギーアダンジョンを難攻不落のダンジョンとせしめているともいえる。




「何らかの理由で新月に脱出できなくて、ブレイドは未知の場所で助けを待っている。


 ま、それが希望的観測ってやつなんだがな」




「あながちあり得るのがあいつの厄介なとこで……」




「なんか、酷い言われようですね……」




「しぶといんだよあいつは、そして、もしヒーロも一緒なら、自分のためよりも仲間のためになら、死んでも死なない奴なんだよ……」




 ブレイドさんの話になると、二人はとても優しい目になる。


 口ではなんだかんだ言っても、昔の仲間が大事で仕方ないという気持ちが伝わってくる。


 だからこそ俺は手伝いたいんだ。




「まーた馬鹿顔になってる……」




「もう助けた後のこと考えてるんだから、本当に大物だよ」




 いかんいかん、この冒険が終わったら、俺、結婚するんだなんて、フラグ以外の何物でもない。


 引き締めねば。




「ツユマルの能力も、アイテムバッグの有効性も恐ろしいほどわかった」




「本当に、ダンジョンにいることを忘れそうになった……」




「半年は、独立して生活できる準備は出来ている。


 探索系魔道具も、余裕に余裕を持たせて用意した。


 これで、あとは今回の宝物の鑑定を終えて装備の最終調整が終われば……。


 ダンジョン都市、ロンダルギーアへ」




 何が待つかは、わからない。


 それでも、俺と俺の友達の幸せのために、一路ロンダルギーアへ!




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