第37話 初級ダンジョン制覇な回
「その先罠がある。魔道具使ってー」
「ああ、罠解きの鈴よその音で我が道に安寧を……」
リーン……厳かな鈴音が洞窟に響き、カチリと罠が解除される。
罠の探知の魔道具もあるが、常時発動していると消耗品費用的にかなり厳しい、その代わりが昆布だ。
昆布をダンジョン探索に放出しマップを作り出し、各所の罠を探知させる。
あとは魔道具で解除すれば安全に探索が可能だ。
「フラグ式の罠はたぶん感知できないよな……」
「以前裏に飛ばされた時みたいなのだよね、ミノタウロスを倒した後にも昆布出していればわかったかもだけど……」
「万が一のために罠破りの護符もある。これ以上昆布殿に仕事をさせるのも心苦しいからな」
なんだか、俺よりも昆布や鰹節の方が敬意を受けているが、仕方ない。
鰹節ポーション、昆布ポーションはそれぞれ最上級体力ポーション、魔力ポーションに相当する。
俺が作るとそこにさらに強化バフが乗る。
合わせ出汁ポーションは神薬ネクタル。死んでなければ完全回復する。
さらに俺製だと超強化バフ付き。
こんなのを常時使用しながらダンジョン探索していたら、尊敬に近い感情も沸いてしまうだろう。
俺だってそう思う。
そう言えば現行のポーションにも使用価値が存在していた。
現行のポーションに誰が作った物でも構わないので俺の出す鰹節と昆布から取られた出汁を混ぜると、バフ効果付きの物に変化する。
つまり、俺が出汁を取らなくても俺が出汁を取った時と同じ効果の物を作り出すことが出来た。
多くの薬師の仕事を奪わなくて済んで個人的には非常に安心した。
どう考えてもバランスブレイカーだからね。
「よーし、30階層最後だ」
「3人でこの安定か……前衛3人パーティ、いいかもしれんな……」
「皆体調は大丈夫? おなか減ってない?」
俺はおかんか何かだろうか?
「強化はかけなおしておくか、味噌汁もらえるか?」
「俺もそうしよう」
「はーいどうぞ」
飲みやすいように温かい程度に冷ました味噌汁をコップに注ぐ。
美味しいからってアツアツにすると、戦闘中に勢いよく飲むと火傷することから学んだ。
火傷してもすぐ治るけど、罰ゲーム並みに熱いのだ……
気がつきそうなものなのに、気がつかなかった……ライオネンは尊い犠牲だったのだ……
「よっしゃ、行くぞ」
「昆布は展開済み」
「慎重にな」
ゆっくりと扉を開ける。その隙間から昆布を部屋に張り巡らせ、罠と敵を探知する。
「やっぱり中央に大きいのが一体だね」
「ボスの部屋だな」
「ああ、行こう」
扉を開けて部屋に入る。背後で戸が閉まる音がすると同時に、部屋の燭台に火が灯る。
蝋燭の揺らめく明かりに浮かび上がる巨体、巨大な石の塊、ゴーレムだ。
「窒息死は無理だな……」
「だな、堅そうだ……」
「来るぞ!」
緊張感のたりない俺とライオネンをシンサールが活を入れる。
巨大な身体から信じられない速さで俺たちに向かって飛び込んでくる。
まるでダンプカーが突っ込んでくるような大迫力だ。
振り下ろす拳をライオネンが巨大な大剣で打ち返す。
ガーーーーン!!
剣というよりは鉄の塊に近い一撃とゴーレムの拳が激しく激突し、甲高い金属音をならす。
「チィッ!! 根元が緩んだ! ツユマル!」
「あいよ!」
俺はバッグから控えの大剣を取り出してライオネンに投げつける。
身をひるがえしてライオネンはその大剣を抜きさりながらキャッチする。
「相手は少し欠けただけか……」
握られた拳が半分削れている。特に痛みも感じない魔法生物にとって、ハンデにもならない。
何も問題がないように次々と拳を振り下ろしてくる。
昆布の粘液で何度か転ばすと、足の裏の形状を変化させて対応してきた。
「思ったよりも知恵が回るな」
「弱点は無いの? たとえばEMETHをMETHにすればいいとか」
「人が作った物はそういうものもあると聞くが、ダンジョンが作った物は、魔核を破壊するしかない」
シンサールは相手の攻撃を華麗に躱しながら的確に関節などの弱点を攻撃している。
すさまじい技量だ。
一方ライオネンはあの重厚な攻撃を正面から捌ききっているのだから、これも凄まじい。
「見えた!! ツユマル胸の左側、星のマークのところだ」
ゴーレムの巨体に何か所か星とか月の紋様が刻まれている。
ゴーレムの右胸、こっちから見て左側に星の紋様が刻まれていて、そこがライオネンの攻撃で少し削られ、その隙間から煌めく魔石が見えている。
俺は一気に昆布を吐き出してゴーレムの手足を縛りあげる。
その隙に一気に接近して鰹節を槍状に作り出す。
「食らえぇ!」
食べろという意味ではない。
俺は鰹節槍を魔石に向かって突き出す。
ズンッと重い手ごたえが腕に伝わる。同時にベキッと魔石の割れる感覚が手に伝わった。
深々と突き刺さった鰹節槍が見事に魔石を貫いた。
ゴーレムは声もなく動作を完全に停止して、ボロボロと砂に変化して崩れていった……。
「魔石、割って良かったの?」
「ああ、この割れた物でも加工すればちゃんと使える。
これだけでかければ二個に分かれても十分だ」
ライオネンが砂の山から魔石を取り出して俺に向かって投げてくる。
割れた魔石をバッグで受け取り、一息をつく。
残身ではないが、昆布は部屋に出しており、罠をいち早く感知できるようにしていたが、どうやらどこかに連れ去られる気配もなく、ダンジョン制覇と相成るのであった。
「よし、奥へ進もう」
「休憩しなくて平気?」
「お陰様で、少し休めば体力も魔力も満タンだ」
「それに、お宝が目の前にあるからな」
部屋の一番奥に、豪華な扉が現れていた。
「これで俺たちもA級パーティだな」
「そうなんだ?」
「初級ダンジョンを単体パーティで突破することがAクラスへの昇格条件だ。
ま、俺たちは出戻りってとこだが、ツユマルはおめでとうだな」
「さ、宝を持ち帰って、祝杯をあげよーぜ!」
宝部屋は不思議なところだった。
真っ白い、大理石よりも白い部屋の中央に豪華な宝箱が置かれている。
中には大量の宝石や魔石、武器防具、魔道具が入れられており、この宝箱自体がマジックボックスのような仕組みになっている。
宝箱は一切動かせない。
「持って帰れればいいんだけどなー」
「ほら、奥に行くぞ」
宝を手に入れると奥の壁に魔方陣が浮き上がる。
罠かと身構えるが、
「外への転移門だ。ダンジョンの最後はこうなってるんだ」
二人が迷わず壁に踏み込んでいったので俺も続くと、確かにダンジョンの入り口に出た。
外は早朝、冷たい空気と差し込む朝日がまぶしかった。
準備運動は済んだ。
これで俺たちは、本番に向けての最後の試練を乗り越えた。
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