第41話 とうとうダンジョンに挑む日が来そうな回
ギルドまで大地の柱と同行して、念のために馬車の中で熊を取り出して運ばせる。
結局大地の柱だけだと全員で一匹運ぶのが限界だったので、ライオネンが一匹担いで俺とシンサールで一匹担いで行くことになった。
「右手奥に運んでくれー」
俺たちが入るとギルド内がざわついた。そりゃそうだ。
突然熊が担がれて、しかも3匹も入ってくればビビるってもんだ。
「オイオイ、ガスラー達じゃねぇか?
お前らこんな大物仕留めたのか?」
あ、これは新人いびり的な奴だろ。知ってる。
「大丈夫だったか? けが人は? お前ら無理すんなよー」
違った。ごめんなさい。見た目で判断しました……
何人かの冒険者が大地の柱のメンバーに笑顔で話しかけている。
基本的にはやったなーとか、あんま無理すんなよとかそんな感じだ。
後から知ったことだが、やっぱり冒険者が集まる街だけあって親が亡くなってしまった子供なんかは、陰ながら援助したりしているらしい。偉そうに語って恥ずかしい……
冒険者になったら世間の厳しさは教えるけど、ほんとに危うくなったら手助けすると聞かされた時は死ぬほど恥ずかしかった。
「それじゃギルドに用があるからこれで」
「あ、ありがとうございました!!」
いろいろあったんだけど、ようやく皆からのお礼攻勢から抜け出してライオネン達と合流する。
めんどくさくなって俺だけ置いて先にギルド長と会っているらしい。
「お、やっと来たか」
「やっと来たかじゃないよ、全部押し付けて……」
「助けたのはツユだ。押し付けたわけじゃない」
「ぐ……」
「貴方が御噂の……初めまして、ギルド長をさせていただいているバリスンです」
60歳くらい? でも、体つきはしっかりとしていて、間違いなく元冒険者だろう。
渋いおじーちゃんって感じだが、たぶんものすごく強い気がする。なんとなく。
差し出された手を握ると確信に変わる。凄い剣ダコだ。
「ど、どうも、ツユ……」
ちらっとシンサールを見ると大丈夫って感じで頷かれる。
「露丸 出涸です」
「貴方のおかげで、たくさんの冒険者が救われた。本当にありがとう」
ぐっと手に力がこもる。こうやって面と向かってお礼を言われると、ちょっとこそばゆい……
「事前に提示されていた通り、確かに冒険者ブレイド、同じく冒険者ヒーロはダンジョンに入っています。しかし、すでにブレイド氏は8年、ヒーロ氏は6年経過しております……」
口には出さないが、ギルド長の言いたいことはわかる。
「……それは承知の上です。それに、人捜しに非常に便利な奴が一緒なんで」
「次の新月は3日後、4日の朝から探索に入ります」
「わかりました。絶対に帰ってきてくださいね」
この街の特性上、ダンジョンに挑んで帰ってこない冒険者も多いそうで、ギルド長は色々と対策を取っているらしいが、やはり深部へと挑むロマンを持つ冒険者を止めることは出来ないそうで、心労が溜まっていそうだった。
俺はなんとなくマジックバッグから茶碗蒸しを取り出した。
後で考えれば、頭がおかしい人だよな……
「これ、良かったら食べてください」
「あ、ああ、ありがとう。おお、温かいマジックバッグは便利ですね」
「そうですね、これがあるから安全にダンジョン探索も出来ます」
「そういったものがもう少し出回れば……ポーションと同じく多くの人の命を救えるのですが……」
それからいくつか事務的な会話をしてギルドを後にする。
茶碗蒸しはギルド長のお眼鏡にかかったようで作り方を説明してレシピを書いて残す羽目になった。
まぁ、気に入ってもらえて嬉しい。
ギルドを出るところでまた大地の柱のメンバーにつかまりそうだったので急いで馬車に乗って宿へと向かった。
こんなに大金になるとは、とか、もらってとか言っていたので、ま、そういう話なんだろうが……立派な冒険者になるんだぞ。俺が言えた義理じゃないが。
結局ダンジョンに潜る日までギルドで顔を合わすのでライオネンとシンサールが何やら指導をしたりしていた。
俺も二人の指導や動きを傍から冷静に見ると、すごい人物なことを改めて知った。
新人冒険者の動きと比べることでそのことをはっきりと理解できた。
ライオネンのことを力に頼りっきりの脳筋だと思っていたことを反省した。
「よっしゃ、じゃ、飲みいくぞー!」
「おー」「おー」
準備を終えたら、おっさん三人で新しい街の味を確かめに行く。
「この街は何と言っても冒険者向けの安くて量が多い、そして何より、安い!」
「こんな辺鄙な場所だと普通は物価が上がりそうだけど……」
「ああ、そうか、ツユにはちゃんと説明してなかったな。
ここのダンジョンは特殊でな、内部にも自然があったりしてダンジョンの魔物以外に動物なんかが繁殖していたりするんだ。ダンジョンというよりは、内部に別世界がある感じだな。
魔物はなぜか人間だけを襲うから、かなりの数の動植物が存在しているんだ」
「俺らが諦めない理由はそこだ。あいつなら、何年だろうが中でなんとかしてるんじゃねーか、そんな気がしてるんだ」
「ダンジョンの説明がこんな直前なのはなんでなんですかねぇ、俺知らないで入ってたら驚くぞ?」
「そういや、なんかずっと一緒にいるみたいな感覚になってたが、冒険者としてはひよっこだったな」
「確かに、失念してたな。わるいわるい」
内心そう言われて、少しうれしかった。
すでに万事は尽くしている。残りの3日間は軽く体を温めながらダンジョン街のグルメに舌鼓を打ちながらその日を待つのであった。
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