第17話強大な敵に必勝パターンを見つける回

「ここが、この階層最後の部屋……」




「作りとしてはボスの部屋っぽいですね……」




「裏のボス……あたしたちで何とかなるのか……」




「ツユマル様のおかげでこんなにすごい装備も揃ったんだ! 何とかするぞ!」




「様だなんて、もう仲間じゃないですか、ツユマルと呼んでください」




「わかった。ツユマル! もう迷わない、さぁ行こう!」




 気合いを入れて、シフさんが扉を調べるのを待つ。


 こっぱずかしいことを言ったので、この沈黙な時間が、恥ずかしい。お互いに……




「大丈夫、罠は無いよ」




「よし、行くぞ……」




 ゆっくりと静かに扉を開き、隙間から内部を探る。


 周囲に敵影は無し、念のために昆布を先行させて内部構造を探ってみたが、大きな部屋に巨大な柱、そして何やら王座のような作りになっている。敵の気配はない……


 しかし、出口の気配もない……そのことを皆に伝える。




「ボスを倒すと出口が出来る場合もあるし、入るしかないな……」




「進むしかないですし、行きましょう!」




「しっ! 静かに……」




 怒られてしまった。


 実際のダンジョン探索は非常に静かに地味に進められる。


 想像していたみたいに扉をドカーンと開けて部屋に飛び込むなんて、状況によるがほとんどない。


 道を歩くときも足音に気をつけながらゆっくりと進めていくし、おっ宝箱だパカーなんてこともなく、周囲の罠、宝箱の罠を慎重に調べてから静かに開ける。


 たとえ中にどれだけすごい物が入っていても、最後手に入れるまで静かーに慎重に行動する必要がある。




「本当に、何もいないな……」




 昆布のおかげでそういった罠探査に時間をかけないで済むのは非常にありがたい。


 昆布は罠があると俺にえぐみとして伝えてくれる。


 ようやく警戒モードを解いて王座へと近づいていく。


 突然、柱に作りつけられた松明の炎が激しく燃え上がる。




「な、なんだ?」




「……どうやらお出ましのようだな」




 室内が煌々と照らし出され、王座に燃え上がった焔の一部が集まっていく。


 巨大な炎の渦が王座を包み込み、次の瞬間弾けとぶ、すると、先ほどまで空座だった王座に巨大な人影が現れていた。イリュージョン……




 炎から現れた巨人がゆっくりと立ち上がる、でかい……


 5mはあろうかという巨体、しかし、最も目を引くのは大きな一つ目、筋肉の鎧と見るからに重そうな鉄球のついたこん棒だ。




「さ、サイクロプス……」




「ライオネンさん知っているんですか?」




「ああ、昔あるダンジョンの最深部で出会った」




「だったら倒し方知っているんですよね?」




「いや、奴の一撃でパーティが壊滅状態になったので残ったメンバーで死ぬ気で逃げた……」




「な、何ですって……」




「そ、装備どうこうの話じゃない! あんな化け物には勝て『ドゴーン』」




 ライオネンさんの説明を遮ってすさまじい重量のものが落ちる音がする。


 その大本はサイクロプスが持つこん棒だ、正確には持っていたこん棒だ。


 今は、床に落としている。そして、そのこん棒を拾おうとしたサイクロプスは派手にすっころんで一回転した。


 なんか強そうだったので、昆布を天井に配置して大量の粘液をぶっかけてみた。


 大きな目に大量の粘液をぶっかけられてシパシパして開けずらそうにしているし、今は立ち上がろうとして何度もずっこけている。


 あーあ、折角こん棒を持ったのにスっころんだせいで自分のこん棒で脛を痛打している。あれは痛い。




「つ、つゆまる?」




 突然のコントにライオネンさんも驚きを隠せないようだ。




「はい」




「あれは?」




「強そうだったので先制攻撃を」




 うっわ、足、さっきので変な方向向いてるんだけど……えっぐ……


 その足をかばう様に片足で立とうとするもんだからさらに派手に転んで柱に頭を打ちつけてしまって悶絶している。


 それでも俺は容赦せずに粘液をたっぷりと垂らし続ける。


 周囲には漏れないように昆布で壁を作り上げて、粘液のプールを作り上げていく。


 その高さをどんどんとあげていけば、サイクロプスは粘液のプールの中でもがき苦しんでいる。


 泳ごうにも粘性が高く難しい、周囲の壁はヌルヌルで破壊できない、そうこうしている間に壁は天井にまで達して出口を塞いでしまう。


 もぞもぞと動いていたサイクロプスの動きもどんどん鈍くなっていく、そしてついには心臓の鼓動も停止する……溺死だ。




「思いついたからやってみたら、出来ちゃった」




 塩に変化していくサイクロプス、粘液に溶け込んでしまう前に昆布と粘液を回収する。


 そこで起きた惨劇を感じさせないように綺麗サッパリと証拠は消滅する。


 あたりには昆布のいい香りが漂っていた。




「さ、流石は……流石……?」




 ソードさんもアレな戦い方に褒めていいのかどうすればいいのか悩んでいるみたいだ……




「な、なんにせよ、あんな化け物を倒せたんだ、喜ぼうじゃないか!」




 目の前には大量の砂に、見たこともない輝きを放っている魔石、そして巨大なこん棒が残されている。




「すっごいお宝やなぁ……」




 シフさんはこん棒を調べている。巨大で重厚な作り、もしもこれが適正に武器として振るわれていたら、防げる人間なんて存在しないだろうし、跡形もなく潰されていたことは間違いない。


 後にわかることだが、このこん棒、もちろん人間に扱える重さではないが、貴重な鉱石である重鋼鉱ヘビースチールを使われていて、溶解して再利用されることになる。




「それにしても、やはり出口は……」




 不安そうなソードさんのつぶやきに反応するように、この部屋の主のサイクロプスが倒された結果か、部屋に異変が起きる。


 王座の背後の壁に巨大な魔法陣が現れ、俺達は再び転移されてしまうのであった。


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