第18話アイテムバック降臨の回

「また跳んだ!?」




 周囲を見渡すが、先ほどの激戦(大嘘)が行われた場所のままだ。


 どうやら部屋全体が転移されるタイプのようだ。巨大なこん棒は部屋の真ん中に鎮座している。




「なるほど……こっちが変わるのねー」




 シフさんが入ってきたドアから外を伺っていた。


 どうやら部屋ごと転移で正解な模様で、ダンジョンのボスを倒した後にあるご褒美的な部屋につながっているようだった。




「普通ならこの部屋は罠とかないんだけど、念のために調べてもらえる?」




「わかりました」




 昆布を部屋中に出して探査してみたが、ぞわぞわ感もなく、罠の可能性は低い。


 それを伝えると全員が一斉に宝箱に飛びついていく。




「す、すごい!! あのダンジョンで手に入れたレベルの武具がこんなに!」




「ひゃっはー! 宝石の海だぁ!!」




 ホーマさんのキャラが崩壊した。




 部屋に置かれた宝箱の中でも一段高い位置に置かれた立派な宝箱、ライオネンさんが俺にそれを開けるよう促してくる。




「この宝箱は、ツユマルが受け取るべきだ」




 ほかのメンバーもみんなうんうんとうなづいている。


 大きな宝箱の蓋を開けると、落ち着いた風合いの茶色いカバンが置かれていた。


 ちょっと拍子抜けにそのカバンを持ち上げると、なんというか、しっくりと来た。


 色合いもいい感じで使いこなすほどに風合いが出て来そうで非常に好みだ。




「ま、まさか……マジックバック?」




「ま、間違いない……」




「このカッコいいカバンは珍しいんですか?」




「ちょ、ちょっとツユマルここの武器をしまってみてくれないか?」




 種類別に並べられた武器を指さすソードさん、いくらなんでもサイズが違いすぎて入りそうにない。




「いやいや、いくらなんでも無茶を言わないでくださいよ、壊れちゃいますよ」




 それでもみんなの目は真剣そのものだ、俺はマジシャンじゃないからそういうハンドパワー的なことはできないよ。と思いながらバッグに剣を入れてみる。




「なん……だと……」




 スルスルと剣がバックに収まっていく、どう考えても長さとバックの長さがあっていない。


 それだけではなく、まるっと収まった剣の重さを感じない。


 さらにさらに、頭の中に今入れた剣、老龍牙の剣、という名前が浮かんでいる。


 それを想像しながら引き抜くと、カバンからにゅるりと剣が出てくるじゃないか、イリュージョン。




「やっぱりだ! すごいぞツユマル! 大商人でも、いや、国王にだってなれる!」




「そ、そんなにすごいものなんですか?」




「凄いよ、それは幻の魔法である空間魔法が刻まれたカバン!


 どんなものだろうが収納できるし、食べ物を入れても腐らない!


 これがどれだけすごい物かわかるだろう?


 カバンに選ばれないと使えないと言われているが、ツユマルなら大丈夫だと思ったんだ!」




 ライオネンさんが筋肉以外でこんなに興奮するところを初めて見た。


 しかし、確かにこれはとんでもない代物だ。


 輸送の概念が吹き飛ぶ、食材も劣化しないというのは俺にとっても非常に嬉しい。




 その後宝物庫内の荷物や旅の荷物を全部収めてみたが、容量は何の問題もなかった。


 塩が地味に重くて邪魔なので本当に助かる。


 鰹節と昆布的には俺も無限アイテムバッグみたいなものだし、もしかしたらこのカバンも容量に果てがないかもしれない……あのこん棒もするりと飲み込んでくれた。




 そして、宝物庫から出ると……




「ここは、最初のミノタウロスの部屋……」




「戻ってこれた―――!!」




 無事に元のダンジョンに帰ってくることが出来た。


 全員で帰還の喜びを分かち合う。


 家に帰るまでが遠足、じゃなくてダンジョン探索。


 帰り道も細心の注意を払って昆布を巻き散らかしながら、とうとう地上への帰還を達成する。




「地上だ―――!!」




 再び全員で帰ってこれたことを喜び合う、あとは近くのダンジョン町から馬車に乗って帰宅……のはずだったが、ダンジョン街で武装した集団に囲まれることになった。


 その集団を率いていたのは……サーナさんだった。




「この手紙はどういうことか、説明していただけるんでしょうね?」




「え? ライオネンさんきちんと許可を取ったって……?」




「い、いやー、そのー、いくなら一人で行けと言われて……寂しいじゃない?」




「寂しいじゃない? じゃないですよ、え? サーナさんに断りもなく一週間ぐらい俺は行方不明だったんですか?」




「い、いや! ちゃんと手紙を残したぞ!」




「ふーん。ちゃんとした手紙というのは、この、ツユマル殿とダンジョン潜ってくる。と書かれただけの紙っキレのことですか?」




 サーナさんが言葉を発すると、周囲の空気が数度下がるような気がする。


 怒った顔も素敵ですが、無表情すぎて怖い……




 その後、実は裏に引き込まれて―……なんて話をライオネンさんがするもんだから氷点下にまで下がった気温に打たれながら全員がむちゃくちゃ怒られました……




「本当に、本当に心配したんですからねツユマル様!


 絶対に今後は無茶なことしないでください!」




 そのおかげか、サーナさんがめっちゃんこデレ期に入ってくれてめっちゃくちゃ可愛かった。


 アイテムバッグを手に入れたと言ったら本当に大きなため息をつかれてしまったけども……




「もう、驚かないつもりでしたけど……こんな辺境の町奉行の手に余ることを次々と……はぁ……」




 そして、バッグに詰められたダンジョンの宝を見てすっかり諦めきった目つきになってしまいましたとさ……

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