第16話強力なダンジョンには、強力な武具が置いてある回

「全部ライオネンさんが突き進んで敵も倒すから昆布の出番は無いのかと思ったんだけどねぇ」




「上層はすでにマッピングも済んでますから、斥候も敵の気配を探るくらいなんですが……」




「刃風がいるおかげでその必要もないからね、さらには未踏破のここでもマッピングに敵の位置まで把握されて……商売あがったりだよ、ま、楽でいいけど」




「皆さん落ち着いてますね……これから未知の敵との戦闘なのに……」




 アーロさんが緊張した面持ちで弓の具合を何度も確かめている。


 確かに現状落ち着いている場合ではないと思うんだけど、妙に落ち着いている。


 


「アーロさん、良かったらこれを齧ってください。気持ちが落ち着きますよ」




 乾燥昆布をちょこっと出してアーロさんに渡す。


 よくメジャーリーガーとかがガムをかむ理由として精神安定効果が期待できると言われている。


 そんな感じの効果があればいいなと思って何となくやってみたが……




「なるほど、心が落ち着くし、なんというか、滾るという奴だなこれは……」




「ツユマル様、自分にもいただけますか」「ウチも―!」




 どうやら効果はありそうだ。結局全員がくっちゃくっちゃしながらダンジョンを進んでいく。




「バカな……オーガ……」




「いや、残念ながら、あれはハイオーガだ……」




 声を潜めてライオネンさんとソードさんが目の前にいる大男のような魔物について話し合っている。




「……以前のパーティなら、1匹なら何とかだが、言っちゃ悪いが、このパーティでは……」




「わかっています……悔しいですが……」




「どうする……?」




「そんなにヤバい相手なんですか?」




「そうだな、さっきのボスであるミノタウロスを一撃で倒すくらいの強さと言えばわかりますかい?」




「そ、それは……しかも、3体……」




「ライオネン様、ここは一体……?」




「もしかしたら、裏なのかもしれない」




「裏?」




「噂には聞いたことがある、ある条件を満たすと扉が開く裏ダンジョン、莫大な富が隠されている代わりに、圧倒的に強力な敵が待ち構えている、らしい。正直生きて帰った者がほとんどいないんだろう、情報がないんだ……」




「逆の道を行くにしろ、敵とはたくさん……」




「ツユマル殿……俺はなんとか血路を開く、なんとか、なんとか生き残って帰ってくれ!」




 ライオネンさんがいつになく真剣だ……


 でも、俺のために皆が傷つくのは、嫌だ。




「皆、ちょっとだけ俺に試させてほしい。


 うまく行けば、皆で帰れる」




「ツユマル様、何を?」




「まぁ、見ててくれ」




 俺は静かに左手から昆布を伸ばしていく、雑談でもしているのか3体のハイオーガは油断しきっている。


 あ、そうそう、通路に出るとダンジョンの各所にマジックアイテムの松明が置かれていて、視界には困らない。真っ暗なダンジョンをこちらの居場所を晒しながらライトをつけて歩かないで済むのは助かる。


 子供のころにやった様な初期のRPGみたいなダンジョンはある程度知己があるので、俺も対応できる。




 昆布が十分にハイオーガの周囲に配置出来たら……




「ぬんっ!」




 一気に大量の昆布をオーガたちに絡めていく、大量の粘液付きだ。




「オガァ!?」




「オガオガ!?」




「オガァウグググ!!」




 突然の出来事にオーガたちは昆布を剥がそうとするが、ヌルヌルで上手くいかずさらに昆布が絡んでいく、大量の粘液は周囲の昆布もそして地面もヌルヌッルにしてしまい、転倒する。


 大声を上げないように口を昆布で塞いで大量の粘液を口や鼻に流し込む。




 俺たち人間なら肌がつやつやぷるんぷるんになる粘液も、魔物にとっては不快なヌルヌルだそうだ。


 実際の昆布のヌルヌルを肌につけたら、たぶんかぶれるからやめたほうがいい。


 しかし、神様から与えられたこの神昆布は一味違う。出汁の味もね。




「今です!」




 呼吸器を大量の粘液で塞がれてもがき苦しむオーガ、その動きはさらに昆布が絡みつき雁字搦めだ。


 身動き取れなくなったオーガを俺たちで袋叩きにする。


 こちらのパーティメンバーの足元の粘液は俺が吸収する。これで全員がローション大相撲状態になることを防いでくれる。




「か、堅い!」




 ストーンブリッジのメンバーの攻撃はなかなかオーガたちに有効打を与えられない。


 なんとかライオネンさんの新武器である斧はオーガたちの強固な皮膚を切り刻んでいた。


 


「私が!」




 ホーマさんの魔法と俺の鰹節ソード、ライオネンさんの斧で、何とかオーガたちの息の根を止めることに成功するのだった。半分は溺死なんだろうけどね……


 鰹節ソードが簡単にオーガのぶっとい首を断ち切ったことにソードさんは驚いていた。




「た、倒せた……」




「なんとかなりましたねー」




「さ、流石は迷い人……凄まじい能力ですね……」




「皆さんけがはないですか? ポーションは出し惜しみせずにどんどん使いましょう!」




 俺は通路に大量に巻き散らかされた昆布を粘液と共に吸収する。


 残されたのはオーガの塩と巨大な魔石だ。




「にゃ!? お宝の香り!」




 オーガの砂を漁るシフさん、そしてそこから現れる小刀。




「す、凄そうな物が……」




「ハイオーガのドロップ品、すさまじい力を秘めているぞ」




「魔石も、こんな魔石見たことが無い」




「す、すごい……」




「まさか、引退してからハイオーガを倒すことになるとは……、いや、俺たちは何もできなかったが……」




「いやいや、皆さんがいるから何とかなるかなと思えたわけですから」




「命を救ってもらった。ストーンブリッジを代表して心から感謝する」




「その挨拶は皆で外に出てからにしましょう、まだ先は長いのですから!」




「そうですね!」




 それからも昆布溺死大作戦は猛威を振るった。


 宝箱から手に入るアイテムは未知の、強力なアイテムで、このダンジョンを抜けるためにも必要と判断して結局すべての部屋を探索した。


 そして、最後の部屋に挑む頃には、俺も含めてライオネンさんもストーンブリッジの面々も、装備が一新されていた。

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