第17話 パーティ結成
買い出しが終わった俺たちは冒険商人のギルドに寄った。
やはり金はあった方が良いので、サンタルナに商品を届ける依頼があれば引き受けようと思ったのだ。
そして、これを機に、俺とミリアルはパーティ登録をすることにした。
ソロよりもパーティの方が信頼度が高くなるため、高額の報酬をもらえる依頼が増えるからだ。
「え~!ミリアルさん、ソロをやめて固定パーティを作られるのですか!?」
受付をしていたベテラン職員のイルダさんが慌てふためいている。
だんだんわかってきたことだが、ミリアルはギルドでとても重要な役割を果たしてきたようだ。これまでソロで鑑定士を務めていたミリアルは、主にギルドから斡旋された依頼をこなしてきた。その結果、ミリアルの方は、安心・安全に仕事ができたので良かったと思うし、ギルドにとっても、確実な鑑定が必要という時にミリアルに依頼することで、かなり助かってきたのだろう。
そのウィンウィンの関係が、固定パーティの結成によって崩壊するのだ。
「パーティを組まれるのは確かにご本人の自由なのですが、当ギルドといたしましては、ミリアルさんがソロの仕事をされなくなると、かなりの痛手となってしまいます。何とか考え直していただけないでしょうか?何でしたら、『特別枠』で当ギルトの職員として採用させていただくことも可能かと思います」
イルダさんはミリアルを引き留めようとして、ギルド職員の話まで持ち出してくる。
ギルド職員は高給取りで皆の憧れのポジションだ。なりたい人はたくさんいるけれど、採用試験がとても難しくて一般枠で採用されることは滅多にない。
ただし、優秀かつギルドに多大な貢献をしてきた人物を採用する『特別枠』という制度があり、これを使ってギルドに就職するのが冒険商人の一つの『上がり』の形になっている。
今回、ミリアルを引き留めるために、イルダさんはこの切り札を出してきたのだ。
「私はリュウさんと一緒に旅に出るのです。これからはリュウさんと、ず~っと一緒なのです!」
ミリアルはそう言って、イルダさんの勧誘には一顧だにしない。
良くも悪くもミリアルは一つのことに熱中するタイプのようで、今は俺との旅しか眼中にないのだろう。
イルダさんは「ぐぬぬぬ」と言って、俺を睨みつけてくる。
イルダさんのプレッシャーがきついので、「ごめんなさい!」と土下座しそうになってしまう。
「もう~、仕方ないですね。もしここに戻りたくなったら、いつでも帰ってきてくださいね。ミリアルさんならいつでも大歓迎です!」
説得は無理と思ったのか、ナイルダさんはそう言って勧誘の話はお開きになった。
「――それで、パーティ名は何になされますか?」
おっと、何も考えてなかったな。何かカッコイイ名前はないかなと考えていると、
「『バラ色の未来』でお願いするのです」とミリアルが答える。
「「えっ?」」
俺とイルダさんの声が重なる。
「私たち二人にピッタリのパーティ名なのです。これ以外にないのです!」
ミリアルがドヤ顔で答える。
『バラ色の未来』はいくら何でもまずいだろう。どうしてもバカップルパーティに思えてしまうぞ。
ミリアルを止めようと思って、「それは、ちょっと…」と俺が言いかけると、
「『バラ色の未来』で登録完了です」と、イルダさんが意地悪そうな顔をして、俺に向かって言った。
「えっと、名前の変更はできる…?」と俺が尋ねようとすると、
「できません!」「必要ないのです!」
とイルダさんとミリアルに瞬時に否定されてしまった。
こうして、『パラ色の未来』というトホホな名前の新しいパーティが誕生した。
ちなみに、ランクはBランクになった。俺とミリアルのこれまでの業績やランクが評価されて、上位ランクからのスタートとなったのだ。
その後、壁に貼ってある依頼書を見てサンタルナまで品物を運ぶ依頼を物色したところ、一つ良いものを見つけた。
塩200樽(約40トン)の輸送である。これで報酬として100万ガルダをもらえる。
塩は生きるために欠かせないものだ。ところが、サンタルナや西の辺境地では塩が極端に不足していて、住民たちはとても困っているらしい。
しかし、ワインなどに比べて塩は重量当たりの単価が安いため、重さのわりに報酬が低く、引き受け手がなかなか見つからなかったということだ。
一方、俺は大容量の収納のギフトを持っていて余裕で運べるため、この依頼を受けることにしたのだ。西の辺境地で活動している『煉獄の誓い』のみんなに、美味しい料理を食べてもらいたいというミリアルの希望をかなえるためでもある。
俺たちは依頼受諾の手続きをして、倉庫で塩200樽を受け取る。
係員は俺がAランクの収納ギフト持ちであることを知って、たまげていた。
これでギルドでの用事が終了したので帰ろうとすると、ギルドマスターのマリアスが声をかけてきた。
「リュウとミリアル、ちょっといいか。少し話があるのだ。俺の執務室まで来てくれないか」
そう言って、俺たちを執務室まで連れて行く。
部屋に入ると、俺とミリアルはテーブルをはさんでマリアスと向かい合うように座った。
「リュウ、お前は本当にいろいろやってくれるな。一昨日のことと言い、ミリアルのことと言い、ギルドは大騒ぎだ」
マリアスは笑いながらそう言ってくるので、とりあえず「すみません」と答えておいた。
「まあ、それはいいのだ。別に間違ったことはしてないのだからな。実は、ここに呼んだのは、頼まれごとを引き受けてほしいからなのだ。お前たちはサンタルナに向かうそうだが、サンタルナのギルドマスターにこれを届けてほしいのだ」
そう言ってマリアスは一辺15センチメートルくらいの金属製の黒い箱をテーブルの上に置いた。
「魔力を封じ込める魔道具が付いたマジックバックなのです。いわゆる『魔封箱』と呼ばれるものなのです。魔法の鍵もかかっているのです」
ミリアルがすかさずそう言った。
「さすがだな、ミリアル。どこまで見えているのだ?」
「この魔封箱の中にはさらに二つの魔封箱が入れ子の状態で入っているのです。つまり、三重の構造になっていて、全体でSランクの闇魔法並みの魔力遮断効果があるはずなのです」
「その通りだ。――それで、中身は何かわかるか?」
「中身はわからないのです。魔力が完全に遮断されているのです」
このような二人のやり取りを聞いていて、あらためてミリアルの鑑定能力の高さに驚く。ミリアルにはマジックバックの中に入っている物もわかるのだ。ミリアルには隠し事ができないということだな。
「お前たちの想像通り、この箱の中には高い魔力を有する『ある物』が納められているのだ。詳細については何も話せないのだが、この箱をサンタルナのギルドマスターに30日以内に届けるという依頼を引き受けてもらえないだろうか?報酬は1000万ガルダだ」
「1000万…」
高額の報酬から考えても、この依頼はかなり重要なものに違いない。
それなのに、なぜ俺たちに依頼するのかという疑問がわいてくる。
「どうして俺たちのようなできたてのパーティに、こんな重要な依頼を頼むのですか?」
その問いかけにマリアスはうなずきながら答えてくれた。
「一言で言うと、いくつかの要素を総合的に判断してというのが答えだな」
「まずはお前たちの信頼度の高さだ。二人ともこれまで依頼の失敗がほとんどない。特にミリアルは、ギルドの重要な仕事をこれまでに何度もこなしてくれた」
それは確かにそうだ。リュウは元来真面目な男で、かなり一生懸命に依頼をこなしてきた。自分の責任で依頼を達成できなかったことは一度もないようだ。
ミリアルはいわずもがなだろう。
「次に、リュウの戦闘力の高さだ。一昨日の決闘でお前の戦いを見たが、低く見積もってもAランクの強さがある。書類上はBランクの剣術にCランクの火魔法となっているが、とてもそんなレベルじゃない。まあ、深くは詮索せんが、高い戦闘力を持っていることは明らかだ」
それを聞いて、さすが『特別枠』でギルドマスターに抜擢されたマリアスだと思った。一目見ただけで俺の戦闘力の高さを見抜くとは、すごい眼力だ。
「そして一番重要なのがミリアルの変貌だ。ミリアルは『煉獄の誓い』以外とは固定パーティを組むことはないとずっと思っていた。それがどうだ?よりによって男と二人でパーティを作るなんて、天変地異でも起こるかと思ったぜ」
マリアスはガハガハ笑いながらそう言う。
ミリアルを見ると、顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「鑑定の力で、この男に何かを見出したのだろう。そして、とても信頼がおける男ということもな。だから、この男とパーティを組み気になったのだろう?」
その問いかけに耳まで真っ赤になったミリアルは、コクコクと頭を縦に振っている。
「ミリアルが認めた男とミリアルが作ったパーティということも、依頼した大きな理由になっている。…以上だが、これで説明になっているか?」
話を聞いた俺とミリアルは、お互いに目を合わせてからうなずき合う。
実はさっきから<テレパス>で二人で相談を続けていたのだ。
「依頼を受けさせてもらおうと思います。ここまで信頼を受けて期待に応えないというのはさすがにできませんので。それに、サンタルナに塩を運ぶという依頼もあるので、ついでといえばついでですからね」
俺は探偵業をしていた時に依頼を断ったことがほとんどない。
期待されているのに、むげに断ることがなかなかできないのだ。
単に小心者だからという話もあるけどね。
こうして、俺たち『バラ色の未来』は、パーティ結成初日にしてデカい依頼を引き受けることになったのである。
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