第13話 テイム

しばらくして落ち着いたミリアルを横に立たせて、俺はテイムを開始する。


「テイム!」


そう唱えると、俺とブルーエイプの体はぼんやりと光り始める。

それと同時に、マグマのような、どろどろとした、煮えたぎるような『何か』が俺の中に入って来た。

俺はすぐに、それがブルーエイプの思念であることを理解する。

俺、いや、人間に対する怒りや憎しみはかなり深いようだ。


俺とブルーエイプは互いにじっと見つめ合う。

しばらくの沈黙。

しかし突然、図太い声が頭の中に響いた。


『小僧、お前は本気でワシたちと相和するつもりか!?――ありえんわ!人間とワシたちは決して相容れぬ!殺すか殺されるかだ!親しみ合うなんぞ、ありえんことだわ!』


Aランクの魔獣ともなると人の言葉を理解できると言われているが、話し方からもかなり高い知性を持っていることがわかる。

それにしても、魔獣の方も人間への憎しみで凝り固まっているな。


『なぜ、そこまで人間を嫌う?それだけの知性があれば、人と話し合うこともできるだろう?殺し合わずに共存して、お互い楽しく生き続ける方が良いと思うぞ』


『バカを言うな!人間はワシらを憎む。そこの小娘みたいにな。そしてワシらは人間を憎む。それがこの世の理だわ!』


『そんなこと誰が決めたんだ?頭から鵜吞みにせずに、自分の頭でよく考えてみろよ!魔獣と人間が殺し合わないことだって絶対にできるはずだ!』


『だ・か・ら、俺は人間が大嫌いなのだ!いいや、魔獣はみんな人間のことが大嫌いなのだ!世の中がひっくり返ろうが、それは永久に変わらんのだ!』


やはり、魔獣の人間への憎悪はものすごく深いようだ。

こんなやり取りを続けても埒が明かないので、少し話題を変えてみる。


『人間、人間とお前は言うが、人間にもいろいろある。実は俺はこの世界の人間じゃない。違う世界からやって来た異世界人だ。だから、お前が俺を嫌う理由はないはずだ』


『何っ!?違う世界から来ただと!?ふざけたことを抜かすな!どこからどう見ても、この世界の人間ではないか!?』


そこで俺は、女神イザベルにこの世界に転生させられ、リュウという男になったたことをかいつまんで話した。

そして、元の世界では、人間は理由もなく動物を殺すことがないことや、俺は大の動物好きであることを説明してやった。


『異世界人か…。それで妙な戦い方をするのか…』


ブルーエイプの様子が少し変わってきたので、多少の誇張も入れて、さらに説得を続ける。


『そうだ。俺は異世界人なのだ。でも、異世界人と言っても、そんじょそこらの異世界人とは違うのだ。俺には未来を読む力がある。その力で、お前の攻撃をすべて見切っていたんだ。だから、お前は負けたんだ。――そして、人間と魔獣は仲良くなるという未来も見えているんだ』


『それが小娘と話していたバラ色の未来か。しかし、いささか胡散臭い気もするのだわ!』


『とにかく、俺は魔獣に興味がある。魔獣のことをもっと「知りたい」と思っている。特にお前のように強くて頭の良い魔獣のことを「もっと知りたい」と思っているんだ』


俺のこの言葉で、ブルーエイプの様子が変わった。


『頭が良いとな!?お前もそう思うのか?親父からもワシは兄弟の中で一番物知りで、頭が良いと言われておるんだわ!』


おっと、思わぬところに食いついてきたぞ。


『へ~、それはすごいな。どうしてそんなに物知りなんだ?』


『それは日々研究を重ねておるからだわ!珍しいことが起きたら、必ずその場に出向いて調べる。そうしたら、何らかの新しい発見がある。それを積み重ねて行けば、自然と物知りになれるというわけなんだわ』


『なるほどな。確かに、知らなかったことに出会えるってすごく楽しいしいからな』


『その通りなのだわ!すごく楽しいのだわ!――しかし、兄貴どもは頭よりも力だと言いおって、俺のしていることをバカにするのだわ。でも、いつか見返してやるのだわ!』


『お前ならやれると思うぜ。もっともっといろんなことを知って、いろんな出会いをしたら、ずっと賢く、そして強くなれると思うぜ』


『俺もそう思うのだわ!――しかし、今日も妙な気配を感じたからここに来てみたんだがな…、とんだドジを踏んでしまったんだわ…』


ブルーエイプの意気消沈した想いが俺に伝わってくる。

なんだかんだ言っていても、やっぱり死にたくないのだろう。

もっと生きて、いろいろなことを知りたいのだろう。


『それは残念だったな…。しかし俺は、今日の俺たちの出会いは幸運だったと思っているぞ』


『貴様と出会ったことが幸運と申すか?』


『そうだ。「知りたい」と思っている俺たちが、こうして出会えたのだからな。これから、お互いのことをたくさん知ることができるなんて、幸運だとは思わないか?』


ブルーエイプはその言葉を聞いて、困惑している様子だ。

そこで俺はある提案をする。


『30日間というのはどうだ?30日間限定で従魔契約をする。それが終わったらお別れだ。あとはお互い好きに生きればいい。何だったら、リターンマッチだって受けて立つぜ』


俺がそう言うと、ブルーエイプはしばらく考えたあと返答した。


『確かに、その提案なら呑んでも良いかもしれん。――そうだな、それは良い考えだわ!30日の間にお前のことを研究し尽くして、今度は絶対にお前に勝ってやるわい!』


その言葉が発せられると同時に、俺とブルーエイプを包んでいた光がおさまって行った。

そして頭の中に『ブルーエイプとの間に従魔契約が成立しました』というアナウンスが流れた。


こうしてブルーエイプは俺の従魔になったのである。

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