第11話 闇魔法(2)

俺は森に入る手前で、ミリアルから一通りの闇魔法のスキルについてレクチャーを受けた。

そして、これから森に入って魔獣相手にトレーニングを行う。


森に入った俺たちは、<エネミーサーチ>で青色に光ったポイントを目指して進む。まずは低レベルの魔獣を相手にスキルの検証を行うのだ。


俺はすでに<レジスト>というスキルを俺たち2人に対して発動させている。

<レジスト>は魔力を通過させない壁のようなものを作るスキルで、魔力から魂や精神を守ると同時に、自分から放出される魔力を遮断するという効果もある。

つまり、魔道具を扱う時だけでなく、自分たちの魔力を察知されないために<レジスト>を使用できるのだ。


魔獣は人の魔力を感知して襲ってくる。

しかし<レジスト>を使えば、魔獣に気付かれずに近づくことができるはずなので、それを試そうとしているのだ。


<レジスト>を維持したまま青色のポイントまで近づいていくと、小人型魔獣のゴブリンがいた。地面に落ちている木の実を食べているようで、こちらには全く気が付いていない様子だ。


ゴブリンの背後に回り込んで、さらに近づく。

そして、残り10メートルほどのところで<レジスト>を解除した。

すると、俺たちの魔力を感知したからだろう、ゴブリンはビクッと身を震わせたかと思うと、俺たちの方に振り向いた。そして、一拍置いてから俺たちめがけて疾走してくる。


ここで、次のスキルを発動させる。


「パラライズ!」


俺の声が発せられると同時に、ゴブリンは何かに躓いたように、頭からゴロゴロと地面に転がった。


<パラライズ>は相手の精神をかく乱し、体の制御を奪うスキルだ。

そのため、体をあまり傷つけずに相手を制圧することができる。


「レジストもパラライズも想定以上のすごさなのです!やっぱり、リュウさんの闇魔法はすごいのです!」


様子を見ていたミリアルは感激しているが、俺の闇魔法はSランクなので、これくらいできて当たり前だろう。


「さて、このゴブリンをどうするかだが…」


「ギッギッギッ」とうめきながら地面の上に転がっているゴブリンを見て思案する。

ゴブリンは身体をピクピクと痙攣させながらも、怒りに満ちた目で俺を睨みつけている。

この世界では魔獣は排除すべき存在という考えが一般的だが、俺としてはなるべく殺さずに済ませたいのだ。

というのも、俺は子供の頃から大の動物好きだからだ。


あれこれ悩んでいると、<エネミーサーチ>のプレートに動きがあった。

高レベルの魔獣を示す赤い点が1つ、ものすごいスピードでこちらに近づいてくるのだ。


「ミリアル!緊急事態だ!とんでもない奴が近づいてくるぞ!」


俺たちは少し開けた場所に移動した。俺の火魔法を使いやすくするためだ。

そして、剣を抜いて待ち構える。

戦闘力と防護力に乏しいミリアルは俺の背後に控えてもらった。

それでも<テレパス>によって二人の意思疎通は欠かさない。


少しして、いよいよそいつが木々の間から姿を現した。

それと同時に、何かが俺たちに向かって飛んでくる。

その着弾点を<予測>した俺は、『左に移動』とミリアルに伝えて、二人で左に移動する。

すると、元いた場所に氷の槍<アイスランス>が突き刺さった。


『あれはAランク魔獣のブルーエイプなのです!まずいです!』


ミリアルは切迫した様子でそう叫ぶ。


それもそうだろう、ブルーエイプは猿に似た高レベルの魔獣で、討伐にはAランクのギフト持ちが3人以上必要と言われているからだ。

全長3メートルを超える巨体ながら、俊敏な動きで接近し、爆発的な威力のパンチや蹴りで敵を仕留めるとされている。

また、高度な氷魔法を使用する遠隔攻撃も得意だ。

このように凶悪な魔獣なため、「青い悪魔」とも呼ばれている。


噂通り、ブルーエイプは高速で移動しながら氷魔法を放ち、隙あらば接近しようと試みる。

俺の方も奴の攻撃を<予測>して、氷魔法を火魔法の<ファイアウォール>や剣撃で防ぐとともに、未来の移動先に<ファイアーアロー>を打ち込むが、ことごとくかわされる。

奴は<ファイアーアロー>の軌道を見て瞬時に移動先を変えているのだろう。


また、奴は頭もよく回るみたいで、時折森の中に姿を隠すと、ぐるりと回り込んで突然別の場所に現れて攻撃を加えたりする。

しかし、<エネミーサーチ>と<予測>を持つ俺には通用しない。


俺としては<パラライズ>を発動できれば良いのだが、スキルの有効距離は5メートル程度らしく、ブルーエイプはその範囲に入ってこないし、入ったとしても一瞬で肉薄できる距離なので良くて相打ちだろう。

そのため、俺としても接近させないように火魔法でけん制するしかない。

完全な膠着状態だ。


ところが、少しして俺は異変に気付く。

<エネミーサーチ>が、別の高位の敵の接近を知らせているのだ。

目の前のブルーエイプが呼び寄せたかどうかはわからないが、そいつが参戦してくれば一気にこちらの形勢が悪くなる。

距離と移動スピードから考えて、ここに到達するまでには20分以上かかると思われるが、それまでに何とかしないと大変なことになる。


そう考えていると、再びブルーエイプが<アイスランス>を放ってきた。

ところが今回は、迎撃した俺の剣が大きく弾かれてしまう。

そして、そのまま剣を取り落としてしまったのだ。

俺は慌てて剣を拾おうとするが、ブルーエイプが<アイスランス>を連射してくるため、剣から徐々に遠ざかる形となる。


ブルーエイプが<アイスランス>を連射した結果、今や剣との距離はブルーエイプの方が近くなった。

明らかに戦局はブルーエイプの方に傾いた感じだ。

ブルーエイプもそのことを理解したのか、ほくそ笑んでいるようだ。


その様子を見て、俺は闇魔法を発動する。


「パラライズ!」


言い終わると同時に、ブルーエイプの両目が見開き、巨体がドサリと地面に転がった。


「作戦勝ちなのです!リュウさん、やったのです!」


背中に控えるミリアルが喜びの声を上げる。


「ぶっつけ本番だったが、何とかなったな」


Sランクの闇魔法のスキルには、物体にスキルを付与する<エンチャント>がある。俺はこのスキルで、剣に<パラライズ>を仕込んでおいたのだ。

そして、わざと剣を落とし、ブルーエイプを剣から5メートル以内に入るように誘導して、スキルを発動させたのである。


実は、この作戦はミリアルが発案したもので、俺は<テレパス>でミリアルに言われたとおりに行動しただけなのだ。

まさしく、ミリアルと俺の共同作業でもぎ取った勝利だったのである。

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