第9話 時間を超える力
翌朝目を開けると、ミリアルと目が合った。毛布にくるまって俺の隣で横になっていたのだ。
俺たちはちょうど向かい合うように、床の上で横向きで寝ている状態だ。
「リュウさん、おはよう、なのです」
小さく微笑んだミリアルが、ささやくように朝の挨拶をしてきた。
その美しい顔に少しの間見とれてしまう。
「おはよう、ミリアル。―どうして、そんなところで寝ているんだ?」
「リュウさんを見ていたのです。目が覚めたら、リュウさんが床で寝ているのが見えたのです。だから、隣に引っ越してきたのです」
う~ん、かわいいことを言ってくれる。
女性にそんなことを言われたのは初めてだ。
「リュウさんを見ながら、女神さまはどうしてリュウさんをこの世界に転生させたのか考えていたのです」
少し真顔になったミリアルがそう言った。
「それは…、俺に<物探し>のギフトがあるからだろう?」
「確かにそうなのですが、――問題はリュウさんの謎のギフトの正体なのです。あれは<物探し>だけのものではないようなのです」
「昨夜の鑑定で何かわかったのか?」
昨夜ぶっ倒れてしまう前のミリアルは<すごい>を連呼していた。よほどのことがわかったのではないだろうか。
「私がギフトの鑑定をすると、使用できるスキルの名前が目の前に現れるのです。レベルが上がったときに初めて使用できるスキルも薄い字で出てくるのです」
ミリアルによると、ギフトのランクが上がるにつれて表示されるスキルの数が増えるらしい。
俺のランクBの火魔法では8個のスキルが表示されたらしいが、以前にランクAの火魔法持ちを鑑定した時には12個のスキルがあったという。
ちなみに、俺のランクSの闇魔法では21のスキルが表示されたらしいが、今のレベルで使用できるのは17だそうで、残りの4個は薄字だったらしい。
「それで…、リュウさんの謎のギフトを鑑定した時に、とんでもないことが起きたのです!私の目の前に100ほどのスキルが現われたのです!そして、そのすべてから尋常ではない力を感じたのです!」
俺たちはいつの間にか起き上がって、床に座って話をしている。
「神様のステータスを鑑定したら、こんな感じかなと思ったのです!」
つまり、俺の謎のギフトは神様レベルということか?
もしかして、<ランク∞(レベルo/∞)>の『∞』というのは、やはり<無限大>ということなのだろうか?
「でも、今リュウさんが使用できるスキルは2つしかなかったのです」
<レベルo>なので、レベルが低すぎて2つしか使えないということかもしれない。
「私は、表示されたスキルについて何とか理解しようと頑張ったのです。そうしたら、ぼんやりなのですが、おそらくすべて<時間>に関係しているということがわかったのです」
「時間?」
「そうなのです。リュウさんが人探しや物探しをする時に関係する物に手を触れると、時間を飛び越えて過去から現在までのイメージが現れるのです。また、戦う時や私たちのことを考える時も、時間を飛び越えて未来のイメージが頭の中に現れるのです」
「時を跳び越える力か…」
「そうなのです!リュウさんのギフトは時を跳び越える力を与えるものだと思うのです!―そして女神さまは、リュウさんにこの世界の未来を託すために、この世界に転生させたのかなと思ったのです」
「それはちょっと飛躍しすぎじゃないか?」
俺が会ったイザベルはなんだか軽そうな感じで、そんなに深いことを考えているようには見えなかった。ただ単に、魔王が造った魔道具を集めてほしいだけじゃないのかな?
でも、そんなことを言うとミリアルが気を悪くしそうだったので、言うのをやめた。
「確かに、私の想像がかなり入っているのです。でも、リュウさんと一緒に魔道具探しをしていたら、だんだんと本当のことがわかってくると思うのです。そして、いつかリュウさんのことをすべて理解できると思うのです!」
ミリアルが自信たっぷりの様子でそう言った。
「なんだか、俺のことを知ることが一番の目的のようだな?」
「そ、そんなことは…あるかも…しれないのです」
そう言いながら、ミリアルの顔がだんだん赤くなる。
「えっと、えっと…、リュウさんの闇魔法のこともよくわかったのです。こちらの方も、と~ってもすごいのです。リュウさんの闇魔法を鑑定して、闇魔法のすごさがわかったのです」
ミリアルはバツが悪そうに闇魔法の話に切り替えてきた。
ちょうどその時、部屋の扉がノックされた。
「リュウさんいますか?もう少ししたら朝食を終了したいので、もし食べられるのなら急いで降りてきてください!」
宿の娘のモモイの声だ。もしかしたら、かなり遅い時間なのかもしれない。
「わかった。さっき起きたばかりなんだ。…ありがとう。すぐに行くよ」
「お願いしますね。それと、もしかしてミリアルさんも一緒におられますか?ミリアルさんのお部屋に声をかけても返事がないのですよ」
その言葉を聞いて、ミリアルの体がビクッとなる。
「ひゃいっ!おられますです!…モモイさん、私もすぐに食事にうかがうのです!」
見ると、ミリアルはさっきよりもずっと真っ赤な顔をしている。
「二人ともお願いしますね。でも…、会っていきなり一夜を共にするなんて、まさしく運命の出会いのようで、本当に良かったですね~♪」
そう言って、モモイは去って行った。
俺たちはしばらく目を見合わせたあと、そそくさと身支度を整えて1階の食堂に降りて行ったのである。
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