第8話 二人きりの夜

ミリアルのパートナー宣言から少しして、店の娘のモモイが扉から顔をのぞかせた。

食堂がそろそろ店じまいするということだ。

そこで俺たちは2階の部屋に戻って話の続きをすることにした。


「二人とも、とっても仲良しの雰囲気なので良かったです」


そんなことを言われながら、モモイの生温かい視線に見送られて食堂を後にした。


俺の部屋に入ると、ミリアルは一つだけある椅子に座ったので、俺はベッドに腰かける。二人で向かい合うような形だ。

そして、話を再開する。

俺は転生の話から始めた。


「――リュウさんは、こことは違う世界からやってこられたのですか?」


「そうだ。前の世界ではリュウイチという名前だった。その時も物探しとか、人探しとかをしていたんだ。文字化けしたギフトはそのためのものだと思う」


「それで納得したのです。謎のギフトのことも、どこか不思議な雰囲気が感じられることも、すべて異世界の人だったからなのです」


ミリアルがそう話すのを聞いて、俺はもう一度ミリアルの意思を確認したいと思った。


「それがわかって、俺と一緒に魔道具探しをするのが嫌になったり、怖くなったりしないのか?」


「そんなことはないのです。その逆なのです。違う世界からやってこられたリュウさん…、リュウイチさんのことをもっともっと知りたいと思ったのです。なんだか、とても楽しそうなのです!」


やはりミリアルは興味のある対象には損得も考えずに、のめり込んでしまう性格をしているのだろう。本当に面白い子だ。


「ありがとう、ミリアル。これからよろしくな。―それから、呼び名はリュウでいいから」


「はい!リュウさん、こちらこそ、よろしくお願いしますなのです。私なんか、足手まといになってしまうかもしれないのですが、精いっぱい頑張るのです」


「いや、ミリアルはすごい戦力だ。ミリアルの鑑定ギフトにはとても期待しているからな」


その後も、俺のことについていろいろな話をした。

ミリアルは、特に日本での俺の人間関係のことを聞きたがった。


「――そうなのですね。リュウさんは一人っ子で、ご両親はすでにお亡くなりになられているのですね。そして、奥さんも恋人さんもいらっしゃらないのです!」


確かに俺は今までモテたことはないけれど、そんなに強調することはないと思うぞ。


「ところで、俺のギフトのことなんだが…、魔道具探しをするには闇魔法をマスターしておく必要があると思うのだけれど、ミリアルは闇魔法の使い方を知っていたりしないか?」


話題を変えようと思って、気になっていたことをミリアルに聞いてみる。


「闇魔法については詳しくはわからないのです。…でも、鑑定ギフトを使ってリュウさんが使用できるスキルを探ることはできるのです」


「そんなことができるのか?やっぱり、鑑定ギフトはとても有用だな」


同じように教会でスキルを調べるには100万ガルダが必要と言われているので、ミリアルに金額をたずねてみたが、無料でよいと言う。


「ぜひ、それをやって欲しいんだが!」


「うふふふ、了解なのです。今からさっそく始めるのです。そのためには…、もう少し近寄る必要があるのです」


そう言ってミリアルは俺の方に椅子を近づけてきた。そして、お互いの膝同士が触れるような距離になる。


「それでは、始めるのです。リュウさんは両手を私の前に差し出すのです」


「こうか?」


言われたとおりに両手をミリアルの前に突き出すと、ミリアルは両手で俺の両手を包み込んだ。


やわらかい手に包み込まれた心地よさに加えて、目の前にはうっすらと上気したミリアルの真っ白な美しい顔が見える。

それを見ていると、むらむらとよからぬ想いが浮かび上がってきた。

夜中に密室で、この状況はまずい。

理性が飛びそうだ。


「リュウさん、ステータスプレートをオープンするのです」


その声で我に返る。

危なかった~。一瞬遅ければ、やばいところだったぜ。もう少しで押し倒すところだった。


「ステータス・オープン」


俺がそう唱えると、ステータスプレートが二人の間に現れる。

ミリアルはそれを確認すると、何か呪文を唱えて、すっと目を細めた。

俺の両手を包み込んでいる手にぐっと力がこもる。

その後も時折ピクピクと眉毛が動いたり、「ンッ」とかうめいたりしている。

きっと鑑定のために力を使っているのだろう。


その頑張りを見ていると、さっきの邪心が恥ずかしくなってきた。

これからミリアルのことは大事にしていこう。そう決心するのだった。


10分ほどたった頃だろうか、ミリアルの目が突然見開かれた。

そして、熱を帯びた感じで話し始める。


「すごいのです!リュウさんはすごい方なのです!リュウさんのことがいっぱいわかったのです!」


そう言って、俺の手をぎゅぅっと握りしめた。

青い目にはうっすらと涙がにじんでいる。


「はう~ぅぅぅ~、でも、もう魔力切れなのですぅ~。限界なのですぅ~」


ミリアルはふら~と立ち上がると、俺に覆いかぶさるように倒れてきた。

俺はミリアルの体を上に乗せた態勢で、仰向けにベッドの上に倒れこむ。


「ミリアル、大丈夫か?」


俺の問いかけに一言も答えない。

そして少しすると、スースーという寝息を立て始めた。

魔力を使い果たして、疲れのままに寝てしまったのだろう。


ミリアルの体が密着した最高の心地よさを感じて、ぎゅっと抱きしめようと思ったのは事実だ。

でも、これからのことを考えて、今夜は誠実な態度をとることにする。

なんたって、さっきミリアルを大事にしていこうと誓ったばかりだからな。

それに…、こんな場合にどうしたらよいか、経験のない俺にはまったくわからないのだ…。

リュウの知識によれば、あんなことをするのだろうが、それはまた今度だな。


俺はミリアルを起こさないように、ゆっくりと二人の体の位置を入れ替えると、彼女をベッドに寝かせた。

そして俺は収納ギフトから寝袋を取り出して、床で寝始めたのである。

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