第7話 パートナー宣言

<俺は何者なのか?>というミリアルの問いかけに、どこまで話してよいものかと悩む。

ミリアルとはさっき出会ったばかりで、どこまで信用できるかわからない。

すでに、俺の<とんでもないギフト>のことを知ってしまったわけだが、それを他人に話してしまうことで、俺が面倒ごとに巻き込まれる恐れだってある。そうなると、依頼の達成が難しくなるかもしれない。


俺がしばらく思い悩んでいると、それを察したのか、ミリアルはある提案をしてきた。


「鑑定士はいろいろな秘密に触れることが多いのです。そして、その秘密を他人に話さないように契約を結ぶことがあります。リュウさんの秘密も契約魔法で守ることができるのです。ぜひ、そうして欲しいのです!」


「そうしてくれるとありがたいが…、そんなことをしてミリアルに何かメリットはあるのか?」


そもそも、俺のミスでミリアルに開示してしまったステータスだ。ミリアルが俺のために契約する理由なんてないはずなのだ。


「リュウさんのことを、もっと知りたいからなのです!リュウさんには、もっとすごい秘密が隠されているように思うのです!それが知りたいのです!リュウさんの秘密を絶対に他言しないと誓うので、ぜひ教えてほしいのです!」


興奮気味に話すミリアルを見ていると、面白い奴だなと思えてくる。

おとなしそうに見えるが、興味のあることに対してはとことん追求しようとする性格なのだろう。

微笑ましげにミリアルを見つめていると、その視線に気づいたのか、ミリアルはアワアワし出した。


「…ごめんなさい、です。一人で先走ってしまったのです…」


「えっと、リュウさんは私に、これ以上秘密を教える必要はないのです。…もちろん、私が知ってしまったリュウさんの秘密は契約魔法で守るのです」


そう言うと、ミリアルは腰につけていた携帯用のマジックバックから一巻きの紙を取り出した。契約に使う魔法紙だろう。

そして紙を広げると、針で指先を突いて血を一滴紙の上に滴らせた。


「リュウさんにも血を一滴お願いするのです」


針を受け取ると、俺も同じように紙の上に血を一滴たらした。


そしてミリアルは呪文を唱え始める。


「女神イザベルの名の下に、我ミリアルは誓う。我が知りえしリュウのいかなる誠を、リュウの許し無くしては一切語らぬ。もし誓いを破りて語りしときは、我が命を捧げて償いとなす」


すると、契約の紙が光り始めた。

輝きは10秒ほど続くと、静かに暗くなった。


「これで契約が成されたのです。リュウさんのことは生涯にわたって私だけの秘密なのです」


ミリアルの真剣な様子を見て、俺はこいつのことを信用してみようと決心した。


「ありがとう、ミリアル。もう少し俺の秘密に付き合ってくれないか?もっともっと、話したいことがあるんだ」


その言葉を聞いたミリアルは、一拍置いてから嬉しそうに微笑んだ。


「も、もちろんなのです!やったのです!」


ミリアルは小さくガッツポーズをしている。

その反応を見ているだけで楽しくなるな。


「俺は、ある魔道具を探す依頼を受けているんだ。…たとえば、すごく魔力が強い魔道具があったとして、その鑑定を行うことは可能か?」


俺の問いかけにミリアルはすぐに答えを返してくる。


「えっと、高レベルの魔道具を扱うときに気を付けないといけないことがあるのです。それは、魔道具によって精神が支配されてしまうことがあることなのです。特に、魔力が強い魔道具には注意が必要なのです」


「闇魔法を使えば精神支配を防げるんじゃないのか?」


「その通りなのです。だから、リュウさんが闇魔法で私を守ってくだされば、鑑定も可能なのです。ランクSの闇魔法持ちのリュウさんなら容易いことと思うのです」


なるほど、女神イザベルが言っていた通りだな。

しかし、俺はまだ闇魔法の使い方がわからないのだ。


「実は、今まで闇魔法を使ったことがないし、使い方もわからないのだが、ミリアルに何かアドバイスできることはあるか?」


「ええっ!?ギフトはあるけど、今まで使ったことがないのですか!?」


ミリアルの驚きも当たり前だ。普通なら、15歳の成人の儀でイザベルからギフトを与えられてから、それぞれのギフトに適した訓練を積むことでレベルを上げて行くからだ。

21歳のリュウが今まで闇魔法を使ったことがないなんてありえない話なのだ。


「ミリアル、これから、かなりとんでもない話をする。それを聞いて、もし良ければ、俺の力になってくれ」


これから話そうとしていることは、ミリアルの想定をはるかに超えているはずだ。

だから、できるだけパニックを起こさないように、ゆっくりと話し始めた。


「闇魔法とアイテムボックスのギフトは、最近になって女神イザベルから与えられたものだ。イザベルはその代わりに、俺に魔王が造った魔道具を探すように依頼してきた。俺はこれから、その魔道具を探す旅に出かけなければならないんだ」


俺の話を聞いたミリアルは動きを止め、目を見開き、呆然としている。

そして、しばらくすると「女神様…」「魔王…」「魔道具…」という単語をブツブツと繰り返し始めた。

やはりインパクトが強すぎたようだな。


そこで俺はミリアルの思考を呼び戻すために、感情をこめて強く呼びかけた。


「ミリアル!俺と一緒に魔王の魔道具を探してくれないか!?」


その言葉に我に返ったのか、ミリアルはつぶやきをやめ、俺の目をじっと見つめる。


「私がリュウさんと一緒に旅をする…。魔王の魔道具を探す…」


「と言っても、ミリアルにもいろいろな都合があるだろう。家族や友人のこともあるだろうし、生活をどうするかという問題もある。それに、魔王の魔道具探しなんて、どんな危険があるかわかったもんじゃない、だから、断ってもらっても全然かまわないから」


そもそも、さっき出会ったばっかりのミリアルにこんな頼みごとをするなんて、厚かましいにもほどがあることはよくわかっている。

しかし、俺の中の<何か>がミリアルと一緒に旅に出ることを強く求めているのだ。

単に、俺がミリアルのことを一目惚れしただけかもしれないが…。


すると、ミリアルは意外な言葉を口にした。


「うふふふ、リュウさんはまた未来を読む力を使っているのです…。リュウさんにはきっと、私たち二人の『バラ色の未来』が見えているのです!」


ミリアルは穏やかに微笑むと、落ち着いた口調でそう言った。


そして、両手を胸の前に合わせて、こう宣言したのだった。


「まだまだ私の理解は追いついていないのです。でも、決めたのです。私はリュウさんと一緒に魔道具を探すのです。これからは、いつも一緒なのです!」


こうして、ミリアルは魔道具探しのパートナーになったのである。

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