第6話 二人だけの食事会

1階の食堂に入ると、入り口近くの席でミリアルは待っていた。

ミリアルは体にフィットした黒服を身に着けていて、それが彼女のスタイルの良さを際立たせている。

そして、それにも増して目を引くのが、金髪の美しいショートヘアだ。


この世界で金髪は珍しい。ちなみに、俺(リュウ)の黒髪も珍しいが、金髪はそれ以上に珍しく、千人に一人くらいじゃないかと言われている。

この世界で最も多いのが栗毛で、その次は赤毛となっていて、この二つで9割以上を占める。だから、金髪と黒髪のペアはこの世界ではほとんど見かけない。


「待たせたようだな」


ちょっと気どって声をかけてみる。


「いえいえ、ほんの少ししか待っていないのです。えっと…、あちらに席を用意してもらったのです。ほかの人に話を聞かれない方が良いかなと思ったのです」


ミリアルの指さした先には扉の開いた小部屋が見えた。

なるほど。二人っきりとは、なかなか良い配慮だな。


俺たちが部屋に入ると、少しして高校生くらいの女の子がやってくる。豚足亭の娘でモモイというらしい。


「お料理をお持ちしてもいいですか?それと、何か飲まれますか?」


ミリアルによると、料理はすでに注文してあるらしい。豚足亭名物の『豚足の煮込み』という料理ということだ。

酒は『ジネス』というエールがうまいということなので、二人ともそれをジョッキで注文した。ちなみに、酒は別料金ということだ。


「うふふふ、ミリアル姉さんが言ってたようにイケメンさんですね」


そう言ってモモイは部屋を出て行った。

俺は日本ではまったくモテない男だったので、モモイの言葉に少し衝撃を受けた。

でも、新鮮な喜びを感じたのも事実だ。


ちなみに、さっき鏡でリュウの顔を見たら、確かにそこそこイケメンだった。

それに、リュウの記憶によると、プレイボーイと言うほどではないが、それなりに女性にモテていたらしい。

これまでに女性と付き合ったこともない俺だが、リュウの知識を活用して、ミリアルと仲良くなれたらいいなと思う。


少しして料理とエールが運ばれてきて、二人っきりの食事が始まった。


「この豚足はうまいな。表面はトロトロだが、中身はプリプリと歯ごたえがあって、旨みもたっぷりだ。それにエールも独特の良い香りがして、いくらでも飲めるな」


「お口に合ったようで、とても嬉しいです。豚足亭の料理は最高なのです!ジネスも最高なのです!」


そう言って、ミリアルも美味しそうに豚足にしゃぶりついている。


ミリアルは小柄だが、食べっぷりが良い。美人が美味しそうに豚足を食べてエールを飲むのがなかなか刺激的で、チラチラと様子をうかがってしまう。


「あんまり見られると、恥ずかしくなるのです…」


「いや、見惚れるほどの綺麗な食べっぷりと飲みっぷりだからな。つい、見とれてしまうんだ」


俺の言葉を聞いてミリアルは微笑む。


「美味しい料理は一生懸命食べてあげないといけないのです!美味しい飲み物は心を込めて飲んであげないといけないのです!それが私の矜持なのです!」


「ハハハハ、確かにそうだ。うまいものは正義だからな」


「正義?…うふふ、そうです!正義なのです!」


そんなたわいない話をしながら、俺たちは出された料理をあらかた食べつくした。

その間に二人ともエールを2杯も飲んだ。大満足だ。


「腹も落ち着いてきたので、そろそろ<話>を始めるか?」


頃合いかなと思って話を切り出す。

何しろ俺には魔王の魔道具を探すという大切な依頼がある。


「このまま、ずっと楽しいおしゃべりをしていても良かったのです…。でも、リュウさんとのお話はとても大切なのです!」


ミリアルはそう言うと、それまでのふやけていた顔が真剣な表情に変わっていった。


「ところで、鑑定ギフトではどこまでのことがわかるんだ?他人のステータスを調べたり、スキルのことがわかったりするのか?」


俺が第一に知りたいことは、俺自身のギフトとスキルのことだ。剣術や火魔法のスキルについては大体わかっているが、闇魔法と文字化けしたギフトについてよくわからないので、その情報が欲しいのだ。


「ステータス・オープン」


そう言って、俺はステータスを表示させる。自分でもう一度確認しておきたかったからだ。


【名前】リュウ

【種族】人

【年齢】21

【ギフト】

   闇魔法:ランクS(レベル1/20)

   火魔法:ランクB(レベル2/20)

   剣術:ランクA(レベル3/20)

   収納:ランクA(レベル1/20)

   φ∇∂σ:ランク∞(レベルo/∞)


ちなみに、ダベルナとの決闘で、剣術のレベルが3に上がった。


俺がステータスプレートを眺めていると、ミリアルが驚きの声を上げた。


「なっ、何なのですか?そのステータスは!?闇魔法に火魔法に剣術に収納、それによくわからないギフトもあるのです!」


「えっ?」


ステータスプレートは本人しか見えないはずなのだが…。


「もしかして、ミリアルには俺のステータスが見えているのか?」


「鑑定のギフトがあれば、他の人がステータスプレートをオープンさせているときに見えてしまうのです」


そうなのか…。


「…でも、これはまずいです!私はリュウさんのとんでもない秘密を知ってしまったのです」


「俺のこのステータスはそんなにとんでもないのか?」


「当たり前です!まず、ランクSの闇魔法なんてあり得ないのです!国宝級なのです!それにランクAの剣術と収納ギフト持ちで、極めつけは謎のギフトなのです!」


ミリアルによると、人で闇魔法のギフトを持つ者は非常に少ないらしい。ランクAでも、6年ほど前に魔王を討伐した勇者パーティの『賢者』以外には知られていないということだ。

また、ランクAの収納持ちというだけで、好待遇で大商会に就職できるらしい。

そして、最後は文字化けしたギフトだ。こんなものはありえないらしいが、異世界のギフトだろうから仕方ないだろう。


「リュウさん、あなたは何者なのですか?」


ミリアルは大きな目をさらに大きく見開いて聞いてくる。


こうして俺たちの長い夜が始まったのである。

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