第5話 パートナー?
ギルドの建物を出ると日暮れ間近だった。
今夜泊まる宿を探そうと宿屋街に向かって歩き出す。
すると、フード付きのローブをまとった小柄な女性が近づいてきた。
「リュウさん、ちょっとよろしいですか?」
リュウの記憶に無い女性だった。
「お前は誰だ?」
「わたしはリュウさんと同じ冒険商人のミリアルといいます。訓練場での戦いを見させていただいたのです。とても感動したのです!それで、少しお話しさせていただきたいと思ったのです!」
「もしかして…、お前は俺のパートナーか?」
「ひゃいっ!?パ、パートナー?い、いきなりプロポーズですかっ!?――たしかに、リュウさんはイケメンで、カッコよくて、とてもタイプの方なのですっ!でも、いきなりプロポーズだなんて~~、えへへへ…、心の整理が追いつかないのです…」
何だ、こいつ!?パートナーじゃなくて、とんだ勘違い女だった!
「いや、いや、いや、違うから!プロポーズなんてしていないから!」
それを聞いたミリアルは一呼吸おくと、碧眼の目を潤ませながら俺を見上げてきた。
「ひどいです!リュウさん!乙女心を弄ぶなんて、ひどすぎなのです!」
違う、違う!お前の勘違いが原因だろ~と心の中で叫ぶ。
でも、怒りを口にするその女性の顔は意外に綺麗だった。
今までフードに隠れてわからなかったけれど、俺の好みにどストライクだ!
大好きなあの女優に似ているな~とボーッと見ていると、ミリアルが驚きの言葉を続ける。
「さっきリュウさんがパートナーと言ったのは、リュウさんの特殊なスキルで私たち二人のバラ色の未来が見えたからではないのですか?この出会いは、運命の出会いではないのですか?」
「特殊なスキルって!?」
「未来を読む力です。さっきの決闘でも、相手の動きを完全に読んでいたと思うのです」
確かに、俺はダベルナの動きを<予測>していたが、それが未来を読む力ということかな…。
「実は、私は鑑定のギフトを持っているのです。それでリュウさんが特殊な力を使って戦っているのがわかったのです。おそらく未来を読む力のようなものだと思ったのです。でも、なぜか正確な鑑定ができなかったのです。こんなことは初めてなのです!」
ミリアルによると、他人がスキルを使っているところを見ると、鑑定の力でそのスキルのことを<理解>できるらしい。
しかし今回は、俺が使っているスキルについてなんとなくわかる程度で、細かいところまでは正確にわからなかったそうだ。
「それで理由を知りたくて、俺を待ち伏せしていたのか?」
「そうなのです。でも、人のギフトやスキルをあれこれ詮索することは、あまり褒められたことではないのです。なので、怖そうな人だったら挨拶だけして引き下がろうと思っていたのです。でも、優しそうな人で良かったのです。できれば、お話しさせていただきたいのです!」
ミリアルは一見内気そうに見える女性だが、俺のことを知りたくて一生懸命な様子だ。それがとても好印象を与える。
「別にいいよ。話をしても」
俺は自分のギフトやスキルについてまだ十分に理解できていない。これから魔道具を集める仕事を進める上でも、自分のスキルの理解を深めておくことは大切かなと思ったのだ。そのためにはミリアルの鑑定ギフトが役に立つ気がする。
それに、こいつがパートナーである可能性はまだ残っているし、何と言っても、とてもかわいいのだ。
「ただし、俺はこれから宿を探さないといけない。それが終わってから、食事でもしながら話をするというのでどうだ?」
「本当ですか?とても嬉しいです!…えっと、もし宿が決まっていないのでしたら、私が泊っている宿はどうでしょうか?それなりに良い宿なのです。1階が食堂になっていて、とても美味しいのです!」
ミリアルは美味しいものが大好きな19歳の冒険商人で、ボドルガの街でもいろいろな店を食べ歩いたという。その中でも一押しが豚肉料理の<豚足亭>で、宿屋も兼業していることから、ボドルガの街に滞在する時は必ず宿泊するらしい。
ちなみに、リュウが持っていた知識と俺(隆一)の知識がうまく融合して脳内変換されているせいか、地球のものに似ているものについては、『豚』のように同じ名前が使われるようだ。
「そうか、それは宿探しをしなくて済むので助かるな」
そう言って俺たちは豚足亭を目指して歩き出した。
道すがら話をする。
「鑑定ギフト…。かなりレアなギフトだな」
「そうなのです。それに、とても役立つギフトなのです。そのおかげで、戦闘力のない私でも冒険商人を続けられるのです」
「すると、いつもは戦闘力のある誰かとパーティを組んでいるのか?」
「そうなのです。戦闘力のある方々と臨時のパーティを組ませていただいているのです。メンバーは基本的に冒険商人のギルドで紹介された方々なのです。ギルドが信頼できる方々を紹介してくださるので、いつも安心してお仕事ができるのです」
リュウの記憶によると、鑑定ギフト持ちはとても有用な人材だ。
それはそうだろう。鑑定ギフトを使えば商品のどんな情報でもつまびらかになるため、商取引ではとても強力な武器になるからだ。
そのため、鑑定ギフト持ちはいろいろなギルドで引手あまたらしく、ギフトを持っているだけで一生安泰と言われている。
ミリアルからある種の余裕が感じられるのも、そういった理由からだろう。
二人でおしゃべりをしながら10分ほど歩くと、豚足亭に着いた。
3階建ての少し年季の入った宿屋兼食堂だったが、家族経営の居心地のよさそうな雰囲気を醸し出している。
案内された部屋も少し古びているが掃除はしっかりされていて、清潔感がある。
これで朝食と夕食が付いて1泊4千ガルダなので、とてもリーズナブルな価格と言える。
宿泊の手続きをして自分の部屋に入った俺は、汚れた体をシャワーで洗い流した。
各部屋には水魔法の魔道具が設置されていて、いつでもシャワーを浴びれるのだ。
俺はシャワーから出ると、新しい服に着替えたのち、ミリアルと食事をするために1階の食堂に降りて行ったのである。
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