第4話 ダベルナとの決闘

俺の前に立ちふさがった大男はリュウの知り合いだった。男はダベルナという名で、たくましい筋肉を見せびらかすように露出度の高い服装の上に革製の鎧を着ている。


まさか、こいつがパートナー?…なわけないか。


「おい、リュウ!最近羽振りがいいらしいな!ちょっと俺たちに酒でもおごってくれよ!」


下卑た笑い顔で、怒鳴りつけるように言ってくる。

ダベルナの後ろでは連れの男2人がギャハギャハと笑っている。


ダベルナとリュウは冒険商人になったのが同時期で、初期の訓練を一緒に受けたことがある。その訓練で1対1の剣術の模擬戦を行ったのだが、ダベルナにさんざんに打ち負かされてしまったようだ。

剣術ギフトは2人ともBランクだったが、試合になると体がでかく、体力に勝るダベルナの方に分があったのだ。

それ以来、リュウに会うたびに絡んでくるようになったらしい。いわゆるタカリというやつだ。


だが、今の俺は以前のリュウとは違う。

剣術のギフトはAランクに上がっているので、もはやダベルナに負ける気がしない。

リュウがさんざんやられた奴なので、死んだリュウのためにも仕返しをしてやりたい。それには良い機会かなと思うのだ。


「誰かと思えばダベルナか!酒ばっかり飲んでるから依頼に失敗するんじゃないのか!?」


1階のロビー中に聞こえるように大きめの声を出して、ダベルナを煽ってやる。


リュウの記憶ではダベルナは最近依頼に失敗したらしい。

何でも、魔獣に襲われた時に携帯用のマジックバックを壊されてしまい、依頼品を取り出せなくなったということだ。それで高額の違約金を払う羽目になって、今は金欠のはずだ。


「なっ…何だと!!」


触れられたくない話を持ち出されて怒りが溢れてきたのだろう、ダベルナの顔がみるみるうちに真っ赤になる。


「お前っ!!弱っちいくせに、誰に喧嘩売ってんだよ!!!」


そう言ってダベルナは俺の胸ぐらをつかもうと手を伸ばしてきたが、俺はさっと身をかわす。すると、ダベルナは俺に近づいて来た勢いのままに、俺の前を通り過ぎてよろけてしまう。かなり無様だ。


「ぷっ、くっくっく」


つい、吹きだしてしまった。


それを聞いてダベルナはさらに激昂した様子で、振り向きざまに俺に飛びかかってくる。


「うらぁ~っ!!」


まさに鬼の形相だ。


俺は素早い身のこなしで突進をかわすと、ダベルナは誰もいない空間にダイブした。

そして、つぶれたヒキガエルのような姿を周囲にさらす。

リュウに見せてやりたかった光景だ。


「コォラ!!お前ら!!何をやってるのだ!!ギルド内での争いはご法度だ!!」


突然、腹の底まで響くような大声が受付の方から発せられた。

声の方を見ると、いかつい顔をした男がこちらを睨みつけながら歩いてくる。

ボドルガのギルドマスターのマリアスだ。


「そんなに体を動かしたいなら、訓練場でやれ!!ここでそれ以上騒いだら、二人ともギルド追放だ!!」


俺の思った通りの展開で、心の中でほくそ笑む。


ギルドの建物の裏には訓練場がある。訓練場では通常の訓練だけでなく、今回のようにギルドメンバー同士のいさかいが生じた場合には、<訓練>という名目で<決闘>が行われるのだ。

ただし、死者が出ないようにギルドで責任のある立場の者が必ず立会人になるし、それ以外の者も立会人として見物ができる。

リュウの記憶からそのことを知っていた俺は、騒ぎを大きくして訓練場での決闘に持ち込もうとしたのだ。そうすれば、多くの人の前でダベルナをぶっ飛ばし、リュウの恨みを晴らすことができると思ったからだ。


「いいぜ!!俺はいつでもやってやる!!昔と同じようにギッタギタにしてやるぜ!!!」


ダベルナが吠えた。


「俺もいつでも相手になるよ。進歩がない奴に負ける気はしないからな」


というわけで、俺たちはギルドマスターのマリアスやロビーにいた他のギルドメンバーたちと一緒に訓練場に移動してきた。


「2人とも同じランクの剣術ギフト持ちらしいから、剣で勝負を決めるということでいいか?」


というマリアスの提案に、俺に火魔法を使われるのを恐れていたダベルナは「よっしゃ!」という感じで快諾する。

俺もダベルナが得意とする剣術で実力差を見せつけたかったので、提案を受け入れた。


俺たちは訓練場の真ん中で、模擬戦用の木剣を握って相対して立つ。


さっきのダベルナは無闇に飛びかかってきて醜態をさらしたが、剣術では体格を生かした戦い方をする巧者だ。長いリーチを利用して距離を取りながら重い剣を振るい、徐々に相手の体力を奪っていくのが勝ちパターンだ。

間合いを詰められた場合には、体当たりで相手を弾き飛ばすこともできる。


しかし、ランクアップのおかげだろう、俺にはダベルナがどう動くのかがわかるのだ。

いや、体の動きや剣の軌道を正確に<予測>できると言う方が正しいだろう。

さっきのダベルナの突進をかわしたのも奴の動きがあらかじめわかっていたからだ。


マリアスの掛け声で決闘が始まると、一瞬で勝負が決着した。


「グギャツ!」


「ボギョ」という打撃音のすぐ後に、ダベルナの断末魔の叫びが訓練場に響く。

俺はダベルナの一気の飛び込みからの剣の振り下ろしを<予測>し、身をかわすと同時に奴の後頭部にめがけて剣を振るったのだ。


目の前でダベルナがうつ伏せでのびている。本当にヒキガエルのようだ。

周りを見渡すと、ダベルナの取り巻きの2人が青い顔をしているのが見えた。

また、立会人をしている他のギルドメンバーも「リュウって、あんなに強かったっけ?」とか「動きが速すぎて何が起こったかわからなかった」などと大騒ぎをしている。

中にはダベルナの普段の横暴さから「ざまあみろ」と言っている奴もいる。


その後、ギルドスタッフの回復魔法で復活したダベルナが再び俺に剣撃を浴びせてきたが、その時も一撃でダベルナの意識を刈り取ってやった。

さすがにこれで懲りたのか、再び回復魔法で復活したダベルナは借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。

これで次から絡んでくることもなくなるだろう。


こうしてリュウの恨みを晴らすことができた俺は、ギルドマスターのマリアスに挨拶をして、ギルドを後にしたのである。

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