第19話 もう一度、挑戦するために
「おっさん! いや、おじさん! 俺に戦い方を教えてくださいッ!」
チームセブンの事務所に来ていた春原くんと出会った瞬間に、眼の前で頭を下げた彼にそう言われた。
おっさんと呼ばれるよりも、おじさんと言われたほうがショックだった。より一層老けたような気分になるから。そんなことよりも、いま大事なのは彼のお願い。
頭を上げて、春原くんは言う。
「俺、本当はもっと出来たはずなんだ。大会で絶対に勝てると思ってた。それなのに負けてしまった、相手を舐めてたんだと思う。でも、良い所まで勝つことも出来た。あの時、もっと練習しておけば。初めての大会で優勝できたかもしれない。なのに、それが出来なかった。だから、とっても悔しいんだ!」
本当に悔しそうな表情を浮かべて、大会に負けてしまった後悔を素直に打ち明ける春原くん。そして俺の目を真っ直ぐ見つめながら、続けて語った。
「次は絶対に負けない。そのためにも、今から頑張って練習したい。俺だけの力じゃ無理だと思う。だから、おじさんに教えて欲しい! どうすれば強くなれるのか」
やっぱり彼は、諦めずに次を目指して頑張ろうとしている。しかも、とても真剣に考えて。そのために腕を磨いて次こそ勝つために。他の誰かを頼って、強くなろうと努力する。その姿勢は、とても好ましい。
俺は頷いた。
「もちろん、いいよ。俺の知っているテクニックを君に教える」
「ありがとうございます!」
付き切りで彼に指導したい。だけど今は、それが出来ない。野球の試合もあるから時間を割けない。とても歯がゆいが、これは仕方ない。今年こそ絶対に引退しよう。自由に使える時間を増やすため。
覚悟を新たにして、春原くんに俺の事情を伝える。
「今は、自由に使える時間が少ないんだ。だから、全てを君に教えるためには時間が足りないかもしれない」
「わかった! それなら自分でも出来ることを頑張ってみるよ。だから、時間があるときは、ちゃんと教えてね」
「もちろんだよ。なるべく時間を調節して、君を指導する」
彼が、まだまだ挑戦する意欲にあふれていることは理解した。教えられることは、ちゃんと教え込む。彼なら、すぐに覚えるだろう。
大会前に個別で指導していた西木くんも一緒に練習して、腕を磨いていく。だけど練習するだけじゃダメだ。実戦で経験を積まなければ。
他のメンバーの気持ちも同じであれば、早めに次のゲーム大会に参加できるように手続きを進めてもらったほうが良いかもしれない。
彼らに必要なのは経験だろう。実力や作戦なども大事だ。だけど、今回の大会では実力で競い合えそうなことは分かった。だけど、経験が足りずに緊張してしまった。そして、実力を発揮できなかった。事前に考えていた作戦も、上手く連携が出来ずに失敗した。
実戦で実力を発揮できるように経験を積む。そうすれば、大会も優勝できるはず。
ポーランドで開催されたゲームの大会に比べたら規模が小さくても、色々な大会に参加する。観客の前でプレイする機会を繰り返し経験するため。
海外ではゲーム大会が盛んに行われているそうなので、様々な大会に参加しよう。そこで経験を積んで、来年の大会に出場する。今度こそ優勝出来るように。
春原くんからのお願いを聞いて、今後のスケジュールと目標が固まった。
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