第18話 大会の振り返り

 中西さんと話し合った後、次は実際の映像を見て確認してみることにした。


「どうぞ。こちらが、大会の様子を撮影した映像です」

「ありがとう、倉永くらながさん」


 パソコンの画面に再生ボタンが表示されている。それを押せば、映像が再生されるようだ。すぐ見れるように用意してくれていたのは、倉永克正くらながかつまささん。


 彼は俺と同年代ぐらいの男性で、チームセブンのスタッフの一人である。


 そして彼は今回の大会に同行して、メンバーたちのサポートをしていた。その時、大会の様子を映像で記録してくれていた。これを見れば、より詳細が分かるはずだ。彼が撮影してくれた映像を見て、大会の様子を振り返る。




「それは、大会の初戦です」

「皆、緊張していますね」

「はい。試合の前から、かなり緊張していたようです」


 補足で説明してくれる倉永さんの声を聞きながら、画面を見る。試合が開始される直前、5人の表情は固い。映像から見ても分かるぐらい、彼らは緊張していた。


 観客に見られながら、パソコンの前に座って無言の5人。けれども相手チームは、リラックスしているのか談笑している様子が見える。暗い雰囲気と明るい雰囲気。


 そして、試合が始まった。


 キャラクターの操作がぎこちなくて、エイムが乱れている。報告の量の少ないし、作戦の選び方も悪い。練習してきた動きと違うから、連携も上手くいっていない。


 大会の雰囲気に呑まれている。けれど、これは仕方ないことだろう。初めての経験だろうから。俺だって、この会場に行ったら緊張するかもしれない。それで対戦した時に、普段の実力を出せるかどうか。


 彼らの試合を、目を離さずに見続ける。最後まで見逃さないように。


 なんとか初戦を勝利した。ギリギリの戦いだった。負けていた可能性もある戦い。相手チームの実力も高かったが、普段の実力を出せていれば楽に勝てるぐらいの実力差がありそうだ。やはり、緊張して実力を発揮できなかったのがマズイ。


 そして、まだ1戦しかしていないのに5人は疲れた顔をしていた。消耗が激しい。この後、まだまだ戦いが続くのに集中力を保てるのか。


 他の参加チームが対戦している少しの合間、休憩出来る。その間にちゃんと休めるのかどうか。結果を既に知っているのに、ドキドキするような不安な気持ちを抱く。


 次の試合の映像が始まった。残念ながら、あまり休憩出来なかったようだ。だが、この試合も勝った。先程よりも、少し緊張がほぐれたのか。普段の動きに戻ってきているのが分かる。それでも、まだ全てを出し切れていない。


 その後、数試合を繰り返していく。大会は二日間にわたり行われた。試合した数も多い。そして、なんとかたどり着いた決勝戦。彼らは、疲労困憊だった。おそらく、これが準優勝だった理由か。


 優勝したチームの実力は圧倒的だった。だけど普段の実力を出して戦えていれば、接戦を繰り広げていたと思う。うちのチームも実力では負けていない。


 今回の大会で負けてしまった原因は、経験不足。それでも、初めて出場した大会の結果としては上出来だろうと思う。決勝戦で負けが決定した瞬間、彼らが悔しそうな表情を浮かべていた。それを見て、まだまだ彼らは成長できると確信した。


 圧倒的な実力差で負けたわけじゃない。それなら、まだまだ出来ることはあるはずだろう。映像を見て、大きな可能性を感じることが出来た。

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