第7話 楽しい時間は

「春原くん、そろそろお家に帰る時間だよ」

「えー! まだ勝負の途中だよ。もう少しいいでしょ、社長?」


 俺たち二人の勝負を止めた声は、中西さんだ。まだ勝負は終わっていないと、続けようとする春原くん。


「おっと。もう、こんな時間なのか」


 気が付くと、もう18時を過ぎていた。外は暗くなっていて、子供が出歩く時間は終わっていた。そんなタイミングで、中西さんが止めてくれた。


 本当なら、俺が止めるべきだったのかもしれない。だが、俺も一緒に夢中になって時間を忘れて楽しんでしまった。


「ダメダメ。明日も学校があるから、早く帰らないと。ご両親も心配するよ」

「大丈夫だって。この時間なら、うちの親は家に帰ってないよ」


 中西さんが家に帰るよう促すが、春原くんは嫌そうにする。まだ、対戦を続けたいようだ。しかし、中西さんは厳しく言う。


「だから、ダメだって。約束したでしょ? プロゲーマーの活動を続けるためには、学業を疎かにしないって」

「ちぇっ! わかったよ」


 どうやら、春原くんは学業を優先するという約束をしているらしい。その言葉で、ようやく彼は家へ帰ることにしたらしい。


「おっさん、名前はなんていうの? 教えてよ」

「俺は上瀬裕一かみせゆういち。よろしく」

「うん。春原大輔はるはらだいすけって名前、覚えておいてよね。絶対に、もっかい勝負するから。それで、次は絶対に負けないからさ」

「あぁ、覚えておく。リベンジを楽しみに待ってるよ」

「じゃあね。バイバイ」


 改めて挨拶した後、握手を交わして再戦の約束もした。その時に感じた、まだまだ小さな子供の手。けれど、すくすく成長しそうな見込みのある子だった。


 春原くんがカバンを持って部屋から出ると、その場には中西さんと俺の二人だけとなった。


「色々と、申し訳ありませんでした」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 すぐさま中西さんが謝ってきたけれど、何も気にしていない。とても楽しい時間を過ごすことが出来たから、むしろ感謝しているぐらいだ。


「そう言って頂けると、助かります。それで、まだまだ色々と話しておきたいことがあるのですが……」

「流石に遅くなっちゃったので、日を改めますか」

「ごめんなさい、上瀬さんの大事な時間を」

「いえいえ、むしろ今回は俺のほうが悪いですよ。春原くんと一緒に、時間も忘れて楽しんじゃったので」


 こうして色々な大事な話については、新たに別の日に話し合うことになった。


 そして話し合った結果、俺はチームセブンというプロゲーマーのチームに所属することを決めた。ただ、活動するのはプロ野球選手を引退した後。まだまだ先のことになるのだが。

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