第3話 リアルとネットの活躍

 待ち合わせていた中西さんが落ち着くまで、少し時間が必要だった。時間が経ち、ようやく冷静になれたらしい彼が再び確認してきた。


「あの、貴方がグラスホッパーさんで間違いないですか?」

「はい、間違いありません」


 中西さんの質問に頷いて答える。間違いなく、自分だ。


「アンシェントワールドやレジェンドオブレガシー、バトル・オブ・スペースなどで毎シーズンのトップランキングに載っている、グラスホッパーさん?」

「そうですね。その他にも、色々なゲームのランキングで載っていると思いますよ」


 どれもプレイした経験のあるゲームタイトル。そして、ランキングに載ったとこもある。


「数日前にメールでやり取りしたのも、貴方が?」

「グラスホッパー宛てのメールを受け取って、返信を書いたのも俺です」


 彼は困惑した表情で、俺の答えを聞いている。


「でも、貴方はプロの野球選手ですよね?」

「えぇ。プロの野球チームに所属している選手です」

「今年も激しい優勝争いをして、連日新聞を賑わせていた、あの上瀬裕一かみせゆういち選手?」

「新聞を賑わしていたのは俺だけじゃなくて、チームの皆も頑張ってましたからね」


 もう少しで手が届きそうな距離だったけれど、負けてしまったのは本当に残念だ。チームの雰囲気も良かったから、どうにか優勝したかったが。


「そういえば、テレビゲームが趣味だとインタビューでおっしゃっていたのを聞いたことがあります。まさかPCゲームもプレイしていて、あれほどの腕前があるなんて知りませんでしたが」

「そうですね。色々な場所で、ゲームが趣味だというのを言ってます。流石に、俺がグラスホッパーというのは言っていませんが」


 趣味はゲームということは、色々なメディアで発言している。だけど、プレイヤーネームを言うことは無かった。わざわざ、言い触らすようなことでもなかったから。なので今回、彼に初めて打ち明けた。


「……本当に驚きましたよ。まさか、上瀬選手がグラスホッパーだったなんて。僕はグラスホッパーが、中学生か高校生の少年だと思っていました。あの辺りのゲームで上位にランクインしているプレイヤーは、ほとんど若い子ばかりですから」


 およそ9割のプレイヤーが30才未満というデータを目にしたことがある。俺より年下のプレイヤーがほとんどだろう。それに、周りでプレイしている人を見たことがなかった。それは、偶然かもしれないけれど。


「申し訳ない。メールで事前に年齢などは伝えておくべきでしたか」

「いいえ! 確認不足は、こちらの問題ですよ」


 ようやく納得してくれたらしい中西さんは、再び難しい顔で悩み始めた。


「うん。でも、そっか。……ということは、我々のチームに誘うのは難しいのかな。プレイヤーとしてじゃなく、他の方法で……」


 ボソッと小さく呟く声が聞こえた。どうやら彼は、違う方法を模索し始めたようだ。だけど、それじゃあダメだ。


「やっぱり、俺じゃあ年齢が高すぎますか?」

「え? いえいえ! 問題はそこじゃなくて、上瀬さんがプロの野球選手、だということなので」

「それなら問題ないです。俺は来年、引退する予定なので」

「うぇっ!?」


 それは、少し前に決まっていたこと。本当は、もう少し早く引退する予定で考えていた。それが、来年まで延びてしまった。だからこそ、来年には必ず引退する。その予定で進めている。それなら、何の問題もないはず。


 そのことを中西さんに伝えると、再び驚いた表情を浮かべていた。

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