第2話 待ち合わせ
俺が所属しているチームは今年、ペナントレースで惜しくも二位に終わった。優勝したチームは終盤の勢いが凄くて、そのままクライマックスシリーズでも勝利をして日本一となった。
そして、オフシーズン。来年の春季キャンプまでは基本的に暇な時間の多い時期に俺は、とある人物と合う約束をしていた。
待ち合わせしているカフェで、コーヒーを飲みながら携帯機でゲームをプレイしていた。ふと視線を感じて、顔を上げた。
視線の先にはスーツを着た男性が居て、彼と目が合う。
「あ、あの! 上瀬選手ですか!?」
「はい、そうですが?」
「お休み中だったのに、本当にすいません! でも、僕、貴方のファンで! あの、サインしてもらえますか?」
「いいですよ」
興奮しながらサインを求めてくるので、ゲームをプレイしている最中だったけれど中断して、プロ野球選手として快く応じる。色紙にサインをすると、他の客も一斉にサインを求めてきた。
「あ、あの! 俺も」
「私もファンで、サインしてもらえますか?」
「この子にも……!」
「お店に飾るサインも、書いてもらえませんか……?」
「もちろん、良いですよ」
約束の時間まで、あと少しある。待ち合わせの相手は、まだ来ていない。なので、この場から離れるわけにもいかずサインを求めてきた人たちにサービスする。
それから、しばらく経過して周りも落ち着いた頃、約束の時間になっていた。まだ相手は現れない。だけど、それらしき人物が居た。メールに書いてあった姿にも合致する。もしかして、彼がそうなのか。
座っていた椅子から立ち上がり、近くのテーブルに歩み寄る。そこに居る人物に、俺は声をかけた。
「あの」
「え? あ、はい! なんでしょうか、上瀬選手!?」
最初にサインを求めてきた、スーツ姿の男性。彼は周りをキョロキョロ見回して、誰かを待っている様子だった。声をかけると、とても驚きながら返事して用件を聞いてくる。
「もしかして、チームセブン代表の
「あ、はい。中西です。え、でも、なぜ僕の名前を……?」
どうやら、彼が待ち合わせしていた人物だということが判明した。まだ彼は、俺の正体について分かっていないようだ。メールで簡単にやり取りしただけだったから、仕方ないか。今日、ここで色々と話をする予定だったからね。
なので俺は、名乗ることにした。
「初めまして、グラスホッパーです」
「……は?」
ネット上で使用しているプレイヤーネームを明かしたら、彼はポカンと口を開けて理解不能という表情を浮かべたまま固まってしまった。
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