10

閃光の様な鋭い光はやがて、包み込む様な穏やかな灯りに変化した。


「あーもう、いきなりすぎるわよ。せめて、いただきます、くらい言ったら?」


「……あなた、光って…なん…で?」


「なんでって…気付かない?私が、あなた達の必死に探してた“純潔の天使”なんだけど」


殺しの天使改め純潔の天使の説明によると、こうだ。

ドクツルタケの種族は、全て猛毒を持つ。しかし、頭に就任した個体だけはその瞬間から全ての穢れが失われて無毒になる。

その事実は、他の種族はおろか、同族ですら知るものは少ない。

そして、その純潔の天使こそが、あらゆる病を治す伝説のキノコとなる。


「さ、説明はこのくらいにして、帰らなくていいの?」


「そうだ、早く、ばあちゃんのところへ!」




家に戻ると、ミリの容態は明らかに悪化していた。呼吸は荒く、ベッドには吐血した跡もある。


「ばあちゃん!ほら、“純潔の天使”だよ!これを飲み込んで!」


ヨスガはキノコを一欠片、水と一緒にミリに飲ませた。

しかし、いくら待っても、ミリに変化がない。


「……どうして」


途方に暮れるヨスガに、純潔の天使が弱々しく口を開いた。土から離れているからか生気がない。


「…この人は…きっと、過去に口にしたことがあるのよ。私の先祖を」


「え?」


「純潔の効果があるのは…一生に一度だけ。一度だけ恩恵を…受けたら…次はな…いわ」


美少女の姿は霧に包まれる様に消え、キノコだけが残った。


でも、そうなると、ばあちゃんは…。

いや、何か方法があるはずだ。何か。


「…ごめんよ、ヨスガ」


ふいに、ミリの皺だらけの手がヨスガの頭を撫でた。


「ばあちゃん…そろそろみたいだ。ヨスガがいてくれて…毎日楽しかったよ」


ヨスガは涙が出ないように口を一文字にして、頭を振った。


「その…キノコは…村人のために使っておくれ」


ヨスガの瞳から涙がついに、一筋だけ溢れた。


「…ダメだ!ばあ…ちゃん、いが…ないで…」


「大丈夫。お前は…やっぱり…どうしたって…ヨスガなんだ…」


そう微笑むと、ミリは息を引き取った。


ヨスガは枯れるほどミリを呼んだが、ミリが戻って来ることはなかった。

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