「…本当に?」


このくだりは、シマリスに続いて2度目だ。

さすがのヨスガも慎重にならざるを得ない。


「本当よ」


殺しの天使は、はっきりとそう頷いた。


「ただし、教えるには条件があるの」


やはり、簡単にはいかない。


「条件って…何だ?」


殺しの天使は不敵に笑っている。ヨスガの必死な様子を楽しんでいるかのように。


「私をひと口、食べてみてよ。そしたら、“純潔の天使”のこと、教えてあげる」


「食べる!?お前は猛毒キノコなんだろ!?そんなことしたら、ヨスガは死ぬぞ」


ベビルが横から荒々しく口を挟んだ。


「でも、そしたらおばあさんは助かるのよ?あなた達は、そのためにこの深い森まで来たんでしょう?」


「そうだけど…でも、ヨスガが死ぬのは俺は嫌だ」


「ならこのまま帰る?私は別にどっちでもいいのよ」


「…お前、ヨスガがここで死ぬのは迷惑そうだったじゃないか」


「気が変わったの。だってその子、おもしろいんだもの」


「…ヨスガ、一旦離れよう。あいつは危険だ」


ベビルは鼻先で帰路を差した。

しかし、ヨスガは、真っ直ぐに殺しの天使を見つめていた。


「…ベビル、ごめん。食べるよ、私」


「は!?お前、何言ってんだよ!死ぬんだぞ!」


「それでもいい。ばあちゃんを助けられるなら、ばあちゃんが幸せに生きてくれるなら、それでいい!」


「なんでだよ!ばあちゃんだって、お前が死んだら悲しむぞ」


「そんなの、分からないよ。ばあちゃんは、私がいない方が幸せかもしれない」


「ねえ、どっちにするの?早く決めて」


「…私が動けなくなったら、ベビルが必ず“純潔の天使”をばあちゃんに飲ませて。今までありがとう。大好きだよ」


そう言って、ヨスガは勢いのまま、殺しの天使をほんの一欠片かじってすぐに飲み込んだ。


「ほら、食べたぞ。早く教えて。私の意識がなくなる前に——」


ヨスガが言葉を言い終えることはなかった。

なぜなら、目の前が眩しすぎて思わず目も口も閉ざしてしまったから。


殺しの天使が発光していると気付いたのは、しばらく経ってからのことだった。

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