早朝、ヨスガはベビルと共に家を後にした。


森を進むに連れて、辺りから草花の冷やかな声が聞こえて来る。


「おい、あれ人間だよな」

「たぶん。どうする、追い払うか」

「でも、武器も持っていないし、まだ子供じゃないかしら」

「それなら、少し脅かせば逃げて行くさ」

「いや、徹底的にやった方がいい。子供だからこそだ」


ヨスガは、この森に住む多くの生き物が自分達人間を良く思っていないことを思い出した。

それは、この森にたまに入ってくる人間が、好き勝手に動植物を狩って荒らし、その対価に何も置いていかないことに他ならない。


「あの!!」


ヨスガがそう叫ぶと、辺りは一瞬静まり返った。


「私はこの森の端に住むヨスガだ。あなた達に危害を与えるつもりは全くない」



「…この子、私たちの言葉が分かるの?」

「この森に住んでるだって?」

「たまに見かける老婆だけじゃなかったのか?」

「そういえば、あのイノシシ、老婆と一緒にいるところを見たような」


再び、草花がざわざわと揺れ始めた。


「あなた達の言う老婆は、私の祖母だ。その祖母が病気で倒れ、“純潔の天使”というキノコを探してここまで来たんだ。知らないか?」


「“純潔の天使”?」

「知らない」

「キノコ?どうせ乱獲するんでしょ?」

「天使と呼ばれる花なら隣にいる」

「はは、アンゲロニア、お前たち持ってかれるぞ」

「ちょっと!やめてよ。花じゃなくてキノコなんでしょ?」


草花たちは次々に好き勝手に喋り始めて、やがて、ヨスガのことなど気にせずに世間話に移行した。


「…だよな」


そう呟いて、ヨスガは足を進めた。


「あいつら、何か言ってたか?俺にはお前の言葉しか理解できない」


下から覗き込むようにベビルが尋ねた。


「いや、何も知らないって」


ヨスガが首を振ると、ベビルは元気付けるようにこう提案した。


「この辺りにはな、キノコの群生地があるんだ。とりあえず、そこに行ってみようぜ」


ヨスガは、笑って頷いた。

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