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解熱薬を飲ませて少し経つと、ミリの顔色は幾らか良くなったように見えた。
「…ヨスガ、この薬…村に行ってはダメだと言ったのに」
「ほら、俺の言った通り怒られた」
「…勝手に行ってごめんなさい。でも、一人でも平気だったよ」
「ダメだ」
「どうして?ばあちゃんや村の人を治せるかもしれない方法も聞いて来たのに。“純潔の天使”というキノコがあるんだ。明日の朝、森に探しに行ってくる」
「…“純潔の天使”…。聞いたのか」
「ばあちゃん、知ってるの?」
「…ああ、昔に一度だけ、見たことがある」
「この森で?やっぱり、あるんだ!眩いキノコだって言うから、きっとすぐに見つかるよ」
しかし、ミリは静かに首を振った。
それが不思議と見つからないのだと。生えている時は、他の真っ白なキノコとなんら変わらないそうだ。
祖母が見た時は、祖父がそれを一口かじって初めて眩く光りを放ったそうだ。
「この森には、同じように白いキノコなんて山ほどある。中には毒を持つキノコもあるんだ。そこから探すなんて危ない。それに、もうばあちゃんは元気だから、大丈夫さ」
「そんなの嘘だ!熱は薬で一時的に収まるだけだっておじさんが言ってた。それに、この痣、全然治ってないじゃないか」
「ヨスガ…すまない、言うことを聞いておくれ。わしはお前を危険な目に遭わせたくないんだ。それに、ばあちゃんは…」
「私だって嫌だ!ばあちゃんが危険な状態になってもただ黙って見ているだけなんて!絶対に嫌だ!」
「ヨスガ……分かった、分かったから。これだけは約束しておくれ。毒キノコの中でも一番危険なキノコがあるんだ。もし出くわしてしまったらすぐに離れること。絶対に口にしないこと。いいかい?そのキノコはな、じいさんの本棚にある図鑑の——」
「…“殺しの天使”?」
そう言うと、ミリの表情が一瞬固まったように思えた。ヨスガの心臓も妙に脈打つ。
しかし、すぐにミリは微笑んだ。
「よくその呼び名を知っていたね。それもダンに聞いたのかい?」
ヨスガは反射的に、うん、と頷いた。
嘘だった。
本当は、数年前、祖父の図鑑をたまたま手にした時に目にした情報だ。
正式名称“ドクツルタケ”のページに挟まれていた小さなメモ。そこには、おそらく祖父の字で、“殺しの天使”と書かれていた。さらに、“純白の美しい少女”と記載があったことまで覚えている。
「気をつける。だから待ってて」
ヨスガは決意を見せるように、ミリに向かって凛々しく笑った。
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