2
家まであと少しの森道で祖母のミリは倒れていた。
ミリをベビルの背に乗せて急いで家まで連れ帰ると、ベッドにそっと寝かせ、粉にした薬草を口に含ませた。
それでも、ミリの身体は燃えてしまいそうなほどに熱く、苦しそうにうなされている。
しかし、突然その声と動作がパタリと止んだ。
「ばあちゃん!?しっかり!」
ミリは全く微動だにしない。
ヨスガは、ベッドの横でミリの手を握り、必死に叫び続けた。
「…ヨスガ。ちょっと落ち着け。意識を失っただけだ」
ベビルが宥めたが、ヨスガにその声は届いていない。
「ばあちゃん…嫌だ。目を開けて。私を…私を一人にしないでよ」
「…ヨスガ」
ミリのお腹の上に突っ伏して震える小さなヨスガを、ベビルは何も言えずに心配そうに見つめるだけだった。
しばらくすると、ヨスガの頭に皺だらけの手が力なくポンと置かれた。
ヨスガがパッと顔を上げると、孫の髪を優しく撫でながらミリが目を細めて苦しそうに微笑んだ。
「ヨス…ガ。お前の薬草のおかげで…はあ…少し…楽に…」
「ばあちゃん!まだ無理しないでいいよ!」
まだ予断を許さない状態だということは幼いヨスガにも分かった。
祖母の腕に徐々に広がっていく、不気味な黒い痣のようなものがそれを暗示している。
「…私、村に行く。村には、もっと良い薬があるかもしれない」
ミリが今度はちゃんと寝息を立てて眠りにつくと、ヨスガはその手をそっと布団の中にしまった。
「…でも、ヨスガは村には行くなって言われてるだろ?」
村へは、ここから行って帰って来るのに半日掛かる。
たまにミリが村へ下る時、荷物持ちにベビルを連れて行くことはあっても、ヨスガを同行させることは決してなかった。
それは、ヨスガがまだ幼く、長距離の移動が困難だからだと言われていた。
「大丈夫。ばあちゃんだって、きっと許してくれる。ベビル、村まで案内してくれ」
ばあちゃん、すぐに薬を持って帰って来るから待ってて。
その気持ちを込めて、ヨスガはミリの頬に優しく口づけをした。
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