総てのヨスガと殺しの天使

せかしお

ヨスガは、“よすが”。

遠い東の国の言葉で、“心の拠り所”を意味するのだと、母親が名付けた。

その母親は、生まれて間もないヨスガを置いて、旅に出た。

必ず迎えに来るとだけ言い残して。



*****


ここは、人里離れた森の中。自然の音だけがこだまする場所。そこに溶け込むように佇む、丸太で出来た一軒の小さな家。


10年経ち、赤ん坊だったヨスガは少女に成長した。肩に掛かる程の赤髪に、黄色い瞳、健康的な褐色の肌は、写真で見る母親にそっくりだと祖母のミリは言う。

この地でヨスガはミリや自然に育てられた。


「ヨスガ!ヨスガ!大変だ!」


振り返ると、家の外からイノシシのベビルが駆け込んできた。


イノシシは、当然人間の言葉を喋ったりしない。

けれど、幼い頃からヨスガは彼らと話すことが出来た。正確に言うと、意志を伝え合うことが出来たのだ。

それは、全ての生き物が対象だった。植物も動物も虫も、耳を澄ませば声が勝手に聞こえて来る。


「ベビル、どうした?」


「ばあちゃんが!ばあちゃんが…!」


ベビルの必死の形相に、察したヨスガはすぐに走り出した。

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