第6話
住める環境を作るために血の契約を行い魔物を使役する日々が続いた。
毎日血を流すわけにも行かず、邪教徒から血を借りることもあった。
それでも限界はやってくる。
ブラッドムーンがやって来たのだ。
「なんでこんなに早く赤い月が……」
『ここはそういう場所だ。
早く生贄を選ぶが良い』
血を絞り出して召喚しても、大量の屍達には勝てない。
「に、逃げよう……」
『ブラッドムーンからは逃げられない。
あの月は何処まで追ってくる』
洞穴に木の扉をつけただけの家、隠れても直ぐに扉を破られるだろう。
中に入り誰を生贄にするか決めなくてはならない。
短い期間だったが一緒に暮らしてきた。
嫌悪する時もあったが皆優しい。
そんな彼らの命を奪わなくてはならないのだ。
「どうして、どうして……」
『誰を生かしたいのか真剣に考えて選ぶが良い。
それとも皆を犠牲にするか?』
誰の命も奪いたくはない。
だが選ばなければ全員が死ぬ。
剣を手に、皆の顔を見る。
誰もが希望に満ちた目をして恐れるものは居ない。
「是非、私を生贄に。
邪神様の元へと行ける名誉和与え下さい」
邪教徒にとっては生贄になることは名誉なことらしい。
そう洗脳されているのだろう。
選ぼうとした時、産声が響き渡る。
「ああ何ということでしょうか。
血の月に生まれるなんて!」
赤い月の時に生まれた子は、呪われし子として忌み嫌われる。
『丁度よい生贄だ。
捧げよ』
「えっ……、生まればかりなのに……」
生まれたばかりの赤子を憎そうに見つめる母の姿に恐怖を感じる。
そしてあろうことか首をへし折ろとしたのだ。
母が自らの子を殺して良い筈がない。
「やめろ、生贄として捧げる」
罪は自分が背負えば良い。
「ですが、これは忌み子です。
このようなものを生贄にすれば邪神様も怒るはずです」
「いやそんな事はない」
儀式はすぐに終わり、3つ首を持つ犬ケルベロスが生まれたのだった。
地獄を守る番犬らしく、ブラッドムーンを乗り越えるには十分な強さを持っていた。
「……また罪を犯してしまった」
『気に病むことはない。
あれは早産、長くは持たない命だった』
兎耳族の繁殖能力は他の獣人よりも優れている。
それでも死産や流産は起きるもので、生まれて命を落とすものも居る。
特にブラッドムーンの時は非常に多い。
それは赤い月が放つ魔力が影響しているのだろう。
「邪神でも慰めてくれんだな」
『まだ死なれては困るからな。
貴様達は我が復活するために働いてもらう』
「でもこのままだと、全滅は近い」
『あの魔物ならば、辺りの敵を一掃し復活までの余裕ができる。
生贄を攫って確保しておけばよい』
血の召喚では弱すぎて村への襲撃は不可能だ。
だが今ならそれが出来る。
「ああ、わかった……行けっ……」
徐々に邪神に染まっているのだろうか。
それが最善だと思えたのだった。
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