第5話

 どれだけ殺したのか解らない。

 それでもゴブリンを犠牲にして逃げ延びるだけで精一杯だった。

「何もかも終わってしまった」

「いえ、これから始まるのです。

私達の楽園をここに築いていきましょう」

 邪教徒は元々何人居たのかわからないが3人生き残ったようだ。

「こんな土地でどうやって暮らすつもりだ。

作物は呪いで歪み魔物となってしまう」

『我を祭り踊るのだ。

そうすれば様々な加護を与えてやろう』

「踊るのか……」

 邪教徒は焚き火を始め、その周りで踊り始めた。

『くっくく……、これよ。

では手始めに食肉の加護を与えよう』

「食肉の加護?」

『貴様たちは野菜しか食べられないのだろう?

その加護があれば肉を食べても体が拒絶することはない』

「肉が食べられる」

 ぼそっと口に出していた。

 それを聞いた邪教徒達は動揺を隠せずに居た。

 肉を食すと吐いてしまう。

 だから植物しか食べない。

「それは本当なのですか?」

「えっ……あっ……、解らない。

でも加護を得たらしい」

「なんと素晴らしいことなのでしょうか。

邪神様……」

 

 この辺りで取れる肉といえば、猫耳族が好んで食す穴ネズミぐらいだ。

 中型のネズミで西瓜ほどの大きさがある。

 それでも兎耳族にとっては驚異であり、捕食することは至難であった。

 誰かを生贄にして魔物を生み出せば、その問題も解決するが犠牲は出したくない。

「ああ、どうしたら良いんだ」

『この地は魔気が満ち溢れている。

血を捧げれば下位の魔物ぐらいは召喚できる』

「召喚?」

『一日だけ従わせることの出来る魔物だ。

半永続的に従わせたいなら儀式を行い信者を生贄とするのだな』

 剣の刃を握り、手に傷を入れる。

 血がポタポタと落ちると、そこから魔法陣が発生し黒い狼が出てきた。

 影狼シャドーウルフと呼ばれている。

 黒い霧状に姿を変え獲物を襲う魔物だ。

「穴ネズミを取ってこい」

 影狼は姿を消すと直ぐに穴ネズミを咥えて戻ってきた。

 一匹あれば、二~三日は持つだろう。

 直ぐに焼いて調理を始めた。


 皆で食事を始める。

 香ばしい焼きたての匂い、噛みつくと肉汁がこぼれ落ちる。

 以前なら吐いていただろう。

 だが何の違和感もない。

 美味しい肉の味が口に広がる。


 邪教徒達は笑みをこぼす。

「なんと美味しいのでしょう。

食べられなかったのは女神の呪いに掛かっていたに違いないです」

「そう、だって猫耳族はこれを美味しく食べているのですものね」

 本当にそうなのだろうか。

 祝福によって、食事を変化させられてしまう。

 異様な力としか思えなかった。

 だが邪教徒達は異様さを感じず正しいとさえ感じているのだ。

 どうして自分が、こんな異端と同じなのか。

『まだ我の事を嫌悪するのか?

まあよい、いずれ我を崇めるようになるだろう』

 ……そうならない。

 罪を侵させた張本人だからだ。

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