第4話

 薄暗い地下室、僅かな隙間から漏れる光の柱だけが唯一の明かりだった。

 人が歩く度に天井が軋む。

 一人や二人ではない、数多くの人達が探しているのだ。

 乱暴に物を倒す音が響く。

「ちっ、何処にも居ない」

「何処に隠れてやがるんだ?」

「何、出入り口は封鎖してある。

絶対に村の中に潜んでいるさ」

「はっはは……、絶対に見つけ出してやる」


 逃げ場はない。

 村は高い塀に囲まれ、出入り口は魔物の侵入を拒むために巨大な門がある。

 ブラッドムーンによって門は破壊されたが直ぐに復旧されるだろう。

 地下室が発見されなかったのは幸運だった。

 静かになりやがて夜となる。

 静かに近づく気配を感じ耳を立てた。

 息遣いが聞こえる。


 床を外す音が聞こえ、女の声が聞こえた。

「女神様、私達に祝福と恵みを与えくださり感謝しています」

 食事の時の祈りだ。

 どうやら食事を持ってきてくれたのだろう。

 暗くて殆ど見えないながら手探りで探すとバスケットに人参と水筒が入っていた。

 それを回収すると、バスケットについていた縄を引っ張り合図を送った。

「では頂きます」

 そう言うと女は床を戻し去っていった。

 今は敏感な時期だ。

 声を出せば誰かに聞かれる。

 息をひそめて過ごすしか無かった。

『命を捧げさせれば、楽に村を支配できるというのに……。

あの女が気に入っているのか?』

「……」

『まあいい、一つ助言をしてやろう。

逃げるなら呪われし大地へ行くが良い』

 呪われし大地は、毎月必ずブラッドムーンが訪れる。

 変異した動植物が襲ってくる。

 とても人が住めるような場所ではない。


 数日が過ぎる。

 邪神の加護を受けているためか傷の治りが早く、歩けるほどには回復していた。

「ナナシ様、儀式の剣を取り戻せました」

「呪われし大地に行く」

「はい、直ぐに向かいましょう」

 嫌がると思っていたが、何の疑問を持たず言うことを聞いてくれる。

 狂信しているのだろう。

「見つからずに行けるか?」

「仲間が村に火を放ちました。

囮となってくれるでしょう」

「なっ……」

 もう覚悟を決めなければならなかった。

『さあ力を欲するのだ』

 圧倒的な力を見せれば降伏して被害を減らせるだろう。

 多くを犠牲にする必要はない。

 これは少数を犠牲にして多くを救済する為に行うのだ。

「そうだね。

あいつらを許さない」

 剣を手に外に出た。

 そして偶然、目の前に立ってた者に剣を突き刺す。

「あっあぁぁっ……邪……」

「邪神よ、さあ力を貸してくれ!」

 魔法陣が地面に現れ、ゴブリン……額に角が生えた人型の魔物が生まれた。

 ゴブリンは兎耳族より少し強く凶暴だが、一匹なら3人いれば勝てる。

「どうして、トロールじゃないんだ?」

『ブラットムーンは我の力も増幅させる。

通常時はその程度の魔物が精々だ』

 誤算だった。

 ゴブリン一匹程度では、村人を抑えることは出来ない。

「うあああぁぁぁっ!」

 だがもう後には引けない。

 全力で戦うしなかった。

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