第3話

 見せしめ。

 おぞましい風習なのだろうか。

 両手を縄で縛られ吊るされている。

 皆が取り囲み時折、小石をぶつけてきた。

 体中が痛い。

「殺すなら一思いにしてくれ……」

 時間を掛けゆっくりと殺すらしい。

 そして干からびるまで放置し燃やされるのだ。

 邪神に何度も助けを求めようかと迷った。

 もし望めば助かるだろう。

 だが、それは恐ろしい結末を迎える事になる。

 だから耐え何も考えないようにした。


 日が落ち暗くなると、皆は家に帰り居なくなる。

「……手の感覚が無くなってきた。

こんな事なら生贄は自分で良かった」

 後悔しても手遅れだ。


 フードを覆い顔を隠した女がやって来る。

「ナナシ様、私は貴方に恩を感じています」

 女は縄を切った。

「ありがとう、でも体中が痛くて走れそうにない」

「では私の家へに隠れ下さい。

いざと慣れば私の命を捧げます」

「そんな……、命を捧げるなんて駄目だ」

「これを見て下さい」

 女は枝に蛇が巻き付いた形のペンダントを見せた。

 邪神のシンボルだ。

「君は邪教徒だったのか」

「はい、ですから安心して下さい」

 仲間が居ると言うことに安堵を感じた。

 もし彼女が邪教徒とバレれば、あの見せしめが行われるのだろう。

『今なら先手を打てる。

一人を生贄にすれば、皆をひれ伏させる力を与えよう』

「……儀式の剣を取り返さないと」

「既に仲間が動いています」

 一人じゃない事に安堵を感じたが、村の多数は邪神を忌み嫌っている。

 邪神の言うように力で押さえつければ支配することが出来るかもしれない。

 そう考えた時、手が震えた。

 

 村に伝わる神話がある。

 邪神に魅入られたものが力を振るう為に次々と生贄を捧げた。

 逆らえば生贄とされ、どんな理不尽な要求でも従うしかなった。

 そんな邪神を女神が封じ平穏に暮らせる様になったのだ。

「……力を手にしたものはいずれ心が変わり、

邪悪なものになってしまう」

「それは女神が植え付けた偽りです」

「じゃあ真実は?」

「邪悪なものが力を振るえば悪となり。

正しきものが使えば正義となる」

 その邪悪か正しいかは誰が決めるんだろうか?

 自分か、皆か、それとも神か。


「もし自分が邪悪な存在だった時、

君が止めてくれるか?」

「貴方は村を救った救世主です。

道を間違えることがあれば私が止めましょう」

「既に一人を殺している。

それが邪悪ではないと言えるのか?」

「戦うと決めた者を止めなかった私達も彼らを生贄にしたようなものです。

彼らはただの無駄死にでしたが、貴方は意味のある死を与えたのです」

 邪神に魅入られた者。

 それがとてつもなく怖い存在だと思った。

 ほかの村人は自分を敵視して拒む。

 共に生きて行くならば、もう邪教徒と手を組むしか無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る