第2話

 床が光り魔法陣が描かれていく。

『生贄に剣を突き立てよ』

 砕けた女神像が集まり剣の形となった。

 儀式のための剣だ。

 皆が見ている前で、それを手に取り倒れている生贄に突き立てた。

 血が床に広がる。

 いや血は魔法陣の形へと流れていく。

 生贄が紫の液状になり溶けていく。

 やがて姿を変え見にくい魔物へと姿を変えた。

 

 トロールと呼ばれている小太りの人型の魔物だ。

 誰も声を出さず目に涙を浮かべ恐怖している。

 もう何処にも逃げ場はないのだ。

「約束通り外にいる化け物から守ってくれ」

 トロールは扉を片手で押し飛ばした。

 扉の向こう側にいたゾンビやスケルトンも吹き飛ばされた。

 圧倒的な力だ。

 ゾンビの鋭い爪や噛みつきをも気にせずトロールは軽く叩くようにしてソンビを粉砕した。

「凄い……」

 数百、数千はいる死者の群れに怖気づくことなく、入り口を守っている。

 どんな攻撃を受けても立ち所に再生し傷が塞がる。

「伝説の魔物トロールだ。

なんて凄まじい生命力なんだ」

『我の力を思い知ったかね。

もっと欲しいければいくらでも与えよう』

「もう必要はない……」

『気が変わったら何時でも呼ぶがよい』

 もう二度と力は借りない。

 

 ブラッドムーンは数日に感じる。

 時が止まっているらしく、普段と変わらぬ時間しか過ぎていない。

 人々は開けぬ夜と恐れた。

 ようやく月が落ち始めている。

「やった……生き残れた」


 日が昇ると同時に死者の群れが崩れ落ち消える。

 当時にトロールも紫の液状になり崩れ散った。

『必要ないのだろう。

くっくく……』

「そんな……」

 それを見た皆が襲いかかってくる。

 抵抗虚しく押さえつけられ、剣を奪われた。

「邪神に魂を売り渡した鬼畜だ。

火あぶりにしてやる」

「おい、……あっ、何を、皆を助けるためにやったことだ」

「口答えするんじゃない!」

 このままだと殺される。

 皆を救うために仕方なくやったことなのに。

「もしトロールが居なかったら全滅していただろう」

「だとしても女神様の封印を壊し、

邪神を解き放った罪は重い」

「なっ……、なんでだ。

あの時は仕方なかったんだ」

 

 何も出来ずに怯えていただけ者たちが、すべてが終わってから、安全になってから反旗を翻したのだ。

 なんて身勝手なんだろうか。

 何を言っても無意味、ただ女神を裏切った事自体が悪いのだ。

 村を救ったことぐらいでは、帳消しになることはなかった。


「ちきしょう、こんな事になるなら見殺しにしておけばよかった」

『我は何時でも貴様を助けてやる。

さあ望が良い』

「……嫌だ」

 次に何を要求されるのか怖い。

 もし次々と望んでいけば、誰も周りに居なくなる。

 そう思えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る