捧げよ
唐傘人形
第1話
赤い月が大地を血に染める。
ブラッドムーンの始まりだった。
大地から死者達が這い出てくる。
ゾンビ、スケルトンと言った化け物だ。
小さな村の祠に兎耳族が集まっていた。
兎の耳が生えた獣人である。
彼らは戦う力を持たない。
逃げるだけが自分たちの才能だった。
誰かが言った。
「もう逃げるのはやめて戦おう」
勇気ある者は武器を手に出ていく。
残った者たちは息をひそめ時が過ぎるのを待つだけだ。
断末魔の声がわずかに聞こえる。
発達した耳はどんな小さな音でも拾ってしまう。
もう戦えるものは居ない。
ゆっくりと近づく死の足音。
15ヶ月を迎え大人になったばかりだ、まだ人生は長く平穏に暮らせると思っていた。
だが終わるのだ。
「ああっもうダメだ」
『はっはは……、死を受け入れるならば、
我にその生命を捧げてみぬか?』
謎の声は脳に響く。
その声は自分にしか聞こえていないようだ。
誰も反応はなく耳を抑えうずくまり怯えている。
「誰だ……」
『我は貴様たちが忌み嫌っている邪神だ。
祠の女神像を叩き割り封印を解け』
「そうだ。
女神様が守ってくれる」
祠の奥に背に翼の生えた女神像が置かれている。
それは100年前に邪神を封印した。
代々この地を守ってくれているのだった。
だからこのブラッドムーンからも守ってくれる筈だ。
『では何故、彼らは死んだ?
女神が守ってくれると本当に信じているなら何故、ここを離れた者がいる』
このままだと全滅すると思ったからだ。
だから勇気を振り絞ったのだろう。
守ってくれると信じているなら誰も怯えたりはしない。
もう女神様を感じられる者が居ないのだ。
「それは……。
いや騙して命を奪うっていうんだな」
『我に命を捧げれば力を与えてやろう。
一人を犠牲にすれば残りの命は保証しよう』
扉を叩く音が響く。
死者達は知性はないが、凶暴で執念深い。
壊れるまで叩き続けるだろう。
もうそれほど持たない。
「……解った。
命と引き換えに皆を助けてくれ」
『では生贄を選べ』
「自分が生贄になる」
『神託を受けるにも生まれ持った素質がいる。
もし次の襲撃の時に神託を受けられなければ滅ぶことになる』
「それは他のものを選べというのか?」
『そうだ。
一族の繁栄を望むならそれが一番』
このまでは皆死ぬ。
だったら一人の犠牲で済ませたほうが良い。
女神像を持ち上げると床に叩きつけた。
粉々に砕け散り、皆は唖然とした。
「何をするんだナナシ。
気でも狂ったのか?」
「かも知れない。
だから皆のために死んでくれ」
最初の生贄に口を開いた彼を指定した。
彼は胸を抑え倒れる。
おそらく邪神に命を奪われたのだろう。
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