第8話
「ふうん、あんた探偵なの。どうりで刑事にしちゃ貧相だと思ったわ」
私の話を聞き終えると、メイファと呼ばれた女は苦笑交じりにつぶやいた。
東洋の女は歳がわかりにくい。
あるいは、見た目よりずっと年嵩なのかもしれない。
外見と妙にちぐはぐな落ち着いた物腰に、ふとそう思った。
「教えてあげてもいいけど、条件があるわ」
「条件?」
「二人を助けて欲しいの」
「もちろん、そのつもりだ」
メイファはぽつぽつと重い口を開き始めたが、やがて、胸の痞えを一気に吐き出すかのように、すべて話してくれた。
本当は誰かに打ち明けたかったに違いない。
一連の出来事は彼女が一人で抱え込むには、あまりにも血生臭かった。
つまり、大金欲しさにナルティがパーディントンにプラチナの情報を流したこと。
ランドールが殺されたのを知ったナルティは、次は秘密を知っている自分も殺されると確信し、今はシェリーと一緒にある場所に隠れているということ。
最後に、私が死体を発見したことにより警察の捜査が始まったため、パーディントンも血眼で二人の行方を探し回っていること。
「わかった、何とかしてみよう。で、二人はどこにいる?」
「何か書く物ある?」
私がペンとメモ帳を手渡すと、彼女は簡単な地図を書き込んだ。
「この場所にいるわ。郊外の一軒家よ。地下室があって、そこに隠れているの。パーディントンの監視が厳しくて一歩も外へ出られないし、このままじゃシェリーがあんまりかわいそうだわ。お願い、二人を助けてあげて」
「わかった。さっそく行ってみよう」
私がドアの方へ歩きかけると、さっきの黒服が戻ってきて、低い声で言った。
「それはヤバそうだぜ。見てみろよ」
彼の指さした窓から向かいの通りを覗いてみると、私のラングラーを見張るようにして、黒いリムジンが二台駐車している。
「いつから停まってる?」
「さあね。俺もたった今気づいたところさ」
どうやら、警察署を出てからここまで尾行されていたらしい。
迂闊だった。
「リムジンにはパーディントンも乗ってるぜ」
「あんた、奴の顔を知ってるのか?」
「この街で知らねえ奴はいねえよ。手前のリムジンの後部座席に座ってる銀髪が見えるだろ。あれがそうだ」
「なるほど」
「さてさて、探偵さんよ。店に迷惑はかけないとか言ってたな。どうするんだい?」
「すまないが、裏口の様子を見てきてくれないか」
「そりゃ命懸けだな」
黒服が手を出したので、もう一枚紙幣を握らせてやった。
「チッ、俺も安く見られたもんだぜ」
軽口を叩きながらも、彼は裏口を覗きに行ってくれた。
それがまた、妙に楽しそうに見える。
メイファがその背中を心配そうに見送って、
「ねえ、どうする気。ここでドンパチやらかすつもり?」
「まさか。連中は俺が引きつけて誘い出す。俺が店を出て10分したら、すぐ警察へ電話するんだ。担当の刑事にシェリーたちの隠れ場所を言って、そこへ警官をよこしてくれ。例の探偵がホシを見つけたと言えばわかる」
「あんたはどうするの?」
「うまくすれば、警察が来る前にケリをつけられるだろう。後は連中の仕事さ。税金分は働いてもらわなきゃな」
黒服が帰ってきた。
「ネコが二、三匹いるぜ。スーツを着たでっかいのだ。ネズミが来るのを待ってるよ」
「了解。これからそのネズミが出て行くぞ」
「何を言ってる。そりゃ無茶だ!」
「ジム、彼はやる気よ」
メイファは私に微笑みかけた。
「裁判になったら証言してあげる。あたし、パーディントンみたいな奴は大嫌いなの」
「助かるね、ありがとう」
「おい、探偵」
黒服の声に振り返ると、彼は真顔で言った。
「死ぬんじゃねえぞ。今度来た時は一杯おごってやるからな」
「そいつは楽しみだ。上等なのを頼む」
人通りに紛れ、ラングラーまでは難なく近づくことができた。
ドアを開けて乗り込むと、私はすぐ助手席の下からショットガンを取り出し、素早く初弾を薬室に送り込んだ。
エンジンをかけたとたん、路地から厳つい男たちがぞろぞろ走り出てきた。
ラングラーの運転席に私の姿を認めると、慌てて向かいのリムジンへ駆け出す。
連中が車に乗り込むより早く、私はラングラーを発進させた。
思った通り、二台のリムジンは何食わぬ様子でつけてくる。
私はショットガンをダッシュボードに置いた。
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