第7話
「やれやれ、警察ってのはよほど暇なんだな。何度来ようが知らねえもんは知らねえんだよ」
店に入るなり、近づいてきた黒人の黒服が喧嘩腰で吐き捨てた。
ナルティの女が働いているという【レッドドラゴン】は、繁華街の中心にあった。
薄暗い照明や、酔っ払いと女たちの嬌声が象徴するように、お世辞にも上品とはいえない類の酒場だった。
「勘違いするな。俺はただ、ナルティの女がここにいるかどうか確かめたいだけだ」
「ふん、知ってても誰が言うかよ。とっとと帰んな」
彼は固めた拳を突き出した。
横に発達した体格と、潰れた鼻の格好から一目でボクサーくずれとわかる。
正面からやり合ったら勝ち目はない。
「まあ聞いてくれ」と、私は黒人を宥めた。「俺は警官じゃない、探偵だ。昨日ナルティの山小屋で死体が見つかったのは知ってるだろう」
「知らねえ奴はいねえよ」
「殺されたのは、友達なんだ」
黒人はちょっと息を呑んだ。
「犯人はどうしても俺の手で捕まえたい。そのためには、ナルティを警察より早く見つけなきゃならないんだ。教えてくれ、頼む。店に迷惑はかけない」
私は彼の黒い手に百ドル紙幣を握らせた。
黒服は私の目をまっすぐ見つめ、しばし沈黙の後、
「わかった」と肯いた。「警察じゃないならそれでいい。その上金まで握らされちゃあな」
彼は私の肩を軽く叩いた。
「シェリーは1年前からこの店にいる」
「シェリー?」
「ナルティの女だよ。本来なら客と深い仲になるのは御法度なんだが、まあ、デキちまったもんはしょうがねえやな。この1週間ばかりは店に顔を出しちゃいねえよ」
「どこにいるんだ?」
「待ってな。今メイファに話させる。シェリーの友達なんだ。おーい、メイファ。ちょっと来い!」
黒服が奥のボックス席へ大声を張り上げた。
店が店なので、どんなあばずれが出てくるかと思ったのだが、現れたのはまだ10代にすら見える小柄な東洋人だった。
「こちらの探偵さんがシェリーの居所を知りたいんだとさ。お前なら知ってるだろうと思ってね」
そう言い置くと、彼はカウンターの向こうへ去って行った。
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