第4話
血痕は居間らしき部屋へ点々と続き、その奥のドアの前で途切れていた。
私は居間を横切り、ドアノブに手をかけた。
鍵はかかっていなかった。
ドアを開けたとたん、さっきまでと比べものにならない悪臭とハエの群れが襲いかかってきた。
まとわりつくハエを忙しく払いのけながら、私は中へ入った。
ベッドの上に腐りかけの死体。
異臭の大本がそこに転がっていた。
男だ。
窓が南向きらしく、射し込んでくる直射日光のせいで、室内はまるで温室のようだった。
ハンカチで鼻と口元を覆っても、なお吐き気がこみ上げてくる。
男はうつ伏せで死んでいた。
脚をドアの方へ向けて倒れている。
まだ腐敗はそれほど進んでいないようにも見える。
ベッドのシーツにもキッチンで見たのと同じような染みが広がっていた。
顔は下になっていて見えないが、金髪だ。
死体を調べるのは、さすがに勇気が要った。
意を決してポケットというポケットを探ってみたが、無駄だった。
尻ポケットに財布が入っていただけで、身分証の類は一切身につけていない。
頭の方へ回ろうとして、男の右手に紙片が握られているのに気づいた。
硬直した指を引き離すのに骨が折れたが、何とか破らずに抜き出すことができた。
しわくちゃだったが、見た感じ名刺のようだった。
それをポケットに滑り込ませ、私は腐敗が顔まで進んでいないよう祈りながら、ハンカチを使って頭をこちらへ向けさせた。
祈りが通じたのか、腐敗は顔まで進んでいなかった。
しかし、その顔は私を驚かせるに充分過ぎた。
アレクス・ランドール。
私の捜していた友人の顔がそこにあった。
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