第4話 元彼と舞踏会で再会

 舞踏会は、グラム伯爵の邸宅で行われることになっていた。

 馬車は伯爵の邸宅へ走る。


「舞踏会なんて久しぶりだなー」


 馬車の中で、コニーは不安だった。

 最後の舞踏会へ行ったのは、18歳だった。

 だからもう4年も前か……

 流行りの音楽とか踊りとか、もう全然わかんないや。

 ちゃんと踊れるかしら……


「大丈夫さ。コニーならすぐにカンを取り戻すよ」


 クロフォードが笑いかける。


「でも、クロフォード、あなたは……」


 クロフォードの動かなくなった足を、つい見てしまう。

 クロフォードは、踊りたくても踊れないのよね。


「ねえ、ブリタニアには、いいヒーラーがいるっていうじゃない。大使に聞いてましょうよ」


 できるだけ明るく元気に、クロフォードに話かける。

 そうよ……一番辛いのはクロフォードだもの。

 馬車の中にいると、これからのこととか、いろいろ考えてしまって泣きそうになってしまう。


「コニー様……」


 隣に座っていたアンナが、肩を優しく抱いてくれた。


「おいおい、そんなに悲しむなよ。せっかくの舞踏会なんだから楽しもう」

 

 馬車がグラム伯爵の邸宅の前に着いた。

 アンナと執事が馬車に板をかける。

 コニーはクロフォードの車椅子を押して、馬車を降りた。

 けっこう車椅子って、押すのたいへんだな……


「コニー様、大丈夫ですよ!わたしが押しますから――」


「アンナ!!俺ならひとりで大丈夫だ!余計なことしないでくれ」


 クロフォードがアンナの手を振り払った。


「つッ!すみません……旦那様」


「……すまん。アンナ。でも、俺は助けを借りなくても大丈夫だから」

 

 グラム伯爵の邸宅は、この街で一番豪華だ。

 噴水もあるし、庭に薔薇で作った迷路がある。

 この街――テトラフォードは、王都の郊外にある小さな街だ。

 美しいエルフの住む森が近くにある、風光明媚な避暑地で、各国の王族たちがよくお忍びで訪れる。

 コニーがクロフォードと初デートで来た、思い出の街でもあった。

 ここにクロフォードがお屋敷を買った時、すごく嬉しかったなあ……

 

「ようこそ、いらっしゃいました!コニー!」


 グラム伯爵夫人――ブレアが、出迎えてくれた。

 ブレアは今年で27歳の、人の良さそうな優しいおねえさんで、よくコニーも午後のお茶会に呼ばれていた。

 コニーとは、お互いに呼び捨てで呼ぶ仲だ。


「お久しぶりです。グラム伯爵夫人。手にキスさせてください」


 クロフォードが手を取ってキスをした。


「あら、ロレンス公爵。魔王討伐から帰られたのね。その……よくご無事で」


 少し間があった。

 グラム伯爵夫人も、やっぱりクロフォードの姿にびっくりしているんだ。

 2人は貴族たちの集まる居間に通された。


「みなさん!勇者のロレンス公爵がご帰還されましたよ!」


 視線が、クロフォードに集まった。


 少しの間のあと、貴族たちは拍手した。

 それから、いろいろな貴族がクロフォードのところへ挨拶へ来た。

 クロフォードは魔王を討伐したときの話を何度もした。

 途中で魔術師のMPが尽きて一度魔王の城か逃げたこととか、中ボスのクリスタルドラゴンを仲間にしたこととか、どうやって魔王にトドメを刺したかとか……。

 クロフォードは笑顔で楽しそうにみんなと話した。


 あたしなんて、別にいらない子か。

 今日の主役は、クロフォード。

 あたしはただ、嫁として帰りを待っていただけだし。

 嫁として、旦那の帰りを待っていた。

 それって、世間では、ただの当たり前のことなのよね……

 でも、待ってるあたしも、すごく辛かったんだよ?


 コニーがひとりで切ない思いをしていると、ひとりの男が近づいてきた。


「コニー!!久しぶり!!」

 

 あ!あいつは!?

 もしかして……?


「クラウス!!なんであんたがここにいるのよ?」


 クラウス・アルトリウス男爵――腕利きの魔術師で、コニーと同じ魔法学校の同級生だ。

 そして、コニーの元彼でもあった。


 なんであのチャラ男が、こんなところにいるわけ??


「なんでって……今日はもともと俺が主役の舞踏会なんだぜ。お前の旦那の勇者様に、主役の座を奪われちまったけどさ!」


「もしかして、ブリタニアの大使って……」


「そう、俺だよ!」


「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

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