第3話 今日だけはあたしは泣かない!

「今日は帰還パーティーよ!アンナ、近くの貴族にすぐ遣いを送って!」

 

 コニーの旦那、勇者クロフォードは歩けない身体になった。

 あたしは信じたくない。

 とにかく今日は動き回って、考えないようにしなくちゃ!!

 コニーは使用人たちに。てきぱきと指示を出す。


「コニー……今日はパーティーはいいよ。きみと一緒にいれたらいいさ」


「ダメよ!魔王を倒した英雄の帰還なんだから、街のみんなでお祝いしなくちゃ」


「コニー様、街の貴族の方々は、今夜はブリタニア王国の大使様が来ていますから、みなさん、そちらの舞踏会に行かれるかと……」


 ブリタニア王国――コニーの住んでいるアルトリア王国の隣の国だ。


「ああ……そうだった。って、ふざんけんじゃねええ!!世界を救った勇者よりも、外国のクソつまらない大使が大事だっていうの!!まったくウチの貴族たちはなんてアホなの!!ばぁか!ぼけえ!!なら、農民たちに声をかけて庭で宴会を開くわ!」


「コニー!落ち着きなさい!」


 アンナが一喝した。

 アンナは、コニーが子どもの頃から長年仕えているメイドだ。

 貴族と平民という身分差を超えて、二人は本物の姉妹のような絆があった。

 コニーは我に帰った。


「……ごめん。ちょっとイキりすぎた」


「ブリタニア王国の大使が来ているなら、挨拶しなくちゃな。舞踏会の招待状は?」


「はい。旦那様、こちらでございます」


 アンナが招待状を差し出す。


「ウチにも来てるじゃないか。コニー、一緒に行こう」


「ええ……でも、今日はクロフォードのお祝いをしたいの!」


「それはまた今度でいいよ。せっかく大使が来ているんだ。挨拶しないと失礼だ」


 ……知らない外国の大使に会ったほうが、かえって気が紛れていいかも。


「コニー様、せっかくですから、行っていらしたら?」


「うん……そうね。行きましょう」


「はい!じゃあ馬車の準備しましょう!」


 アンナが玄関のほうへ駆けて行く。

 あーアンナ!!クロフォードと二人にしないで!!

「俺なら大丈夫だよ。それに……もう勇者はできないから、魔術師か薬師に転職したいと思っているんだ。そのためのコネも作らないと」


 クロフォードはコニーの手を握った。


「わかった。でも、今日帰ってきたばかりだから、遅くなる前にお暇しましょう」

「コニー様!馬車の準備ができました!」


 アンナの元気な声が聞こえた。


 

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