第7話 波乱の就任挨拶
なんか視線感じると思ったらミューディじゃん、あれ。
ははっ、ぽかーんって口空けちゃってお嬢様がそんな間抜け面してちゃダメだろ。
ま、王家からの勅令なんであいつには何も教えてなかったし、俺がいきなり先生になって目の前に現れたら驚くのも無理ないけど。
「ではオルライン先生、就任の挨拶をしていただけますかな?」
場所が場所だから、いつもより他人行儀な師匠が演台から離れて手招きしてくる。
ようやく俺の出番ってわけだ。
ふぅ……流石にちょっと緊張する。
俺だってまだ十八の若造だし、十八って言ったら魔法学院の最高学年と同い年だ。壇上に視線を向けてくる生徒の内の何人かは、もし俺が師匠の推薦で王都に行っていなければ今ごろ同じ学年の級友だったかも知れない。
それが英雄に担ぎ上げられたと思えば暗殺されかけて、別人にされた挙げ句に今度は学院の先生だってんだから、人生ってのはなにがあるか分からないもんだ。
演台に備え付けられている拡声の魔道具に「あー、あー」と声を発して音量を確認する。
よし、いける。
さてと教導官としての初仕事、せいぜいかましてやるとしますか。
「あ~、新入生のみんな入学おめでとう。在校生も初めまして、今年度からこの学院の教導官になったカイン・オルラインだ」
生憎と俺は軍属の魔導師って言っても元々研究職で、本物の教導官がどう立ち回るのかなんて知らん。そもそも教師自体やったことないしな。
だからここは俺なりのやり方でやらせてもらう。
「今、もしかすると俺のことを見て自分と大して歳の変わらないヤツが本当に強いのかと思った者もいると思う。――はっきり言う、それは正しい」
そう言うと場内がざわざわとざわめいた。
「俺は戦争の後遺症で魔力の大部分を失ってしまってな。せいぜいが
今の俺には神域魔導師と呼ばれた
だからこそあの女王サマから勅命が下った時は頭を抱えたわけだが。
「初級魔法しか使えない教導官なんぞ君らのほとんどは興味を示さないだろうから先に言っておく。学院の教本に書かれてる、古き良き伝統通りの真っ当な――魔力任せで時代遅れの実戦では使い物にならない魔導を教わりたいなら俺の授業を受ける必要はない。ご列席の石頭な先生方の方が遙かに上手く教えられるだろうよ」
どうせ隠してもバラされるだろうから初手で自分から明かしつつ、ついでに少し煽ってやると案の定というか会場は大荒れになった。
「なっ、なんだあの馬鹿は! あんなふざけた態度が許されて堪るか! 誰かッ、あの中央から来た余所者を壇上から引きずり降ろせ!!」
生徒はすっかり困惑しきってるし、教員席のいかにも貴族出ってカンジの中年男なんて今にも俺を殺してやろうって目で睨んできてる。
まあ俺を敵視してるのは今のが発端じゃなくて元々だろうが。
だけどまだ待ってろって、学院長は止めてないし、それに俺の話は終わってないんだからさ。
「――もし。君たちの中に実戦で役立つ本物の魔導を求めている者がいるなら俺のところに来い! 家柄も、才能も、魔力量も関係ない! 強くなろうとする意思があるのなら、俺が一流の魔法使いに育て上げてやる!!」
そう自信満々に宣言して演台から離れると、俺にだけ見えるように師匠が片目をパチリと瞑った。
ひとまず俺と師匠の計画通り、派手に名前を売りつつ教員共に喧嘩を吹っ掛けられたわけだが。
さてさて、これからどうなるかな……?
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