第8話 seven

 語尾が上がる変なアクセントで呼びながら、夏月の手を一郎から奪う。夏月は性別を間違って呼ばれたことを、特に気にも留めなかった。


「アメリカ国籍をもってるっすよね?」


 質問に、夏月が頷く。


「じゃー、日本国籍を捨てて完全なアメリカ人にならないっすか?」


 一郎がそれを聞き、夏月の手を取り返す。


「何を言う!」


 声を荒げる一郎を、ジョンは無視する。


「こんな、顔だけで採用されたのよりは、俺の方が割とマジでいいっすよ」


「お前だって似たようなもんだろうが!」


「えー違うっすよ。センパイと違って、俺マジ優秀っすから」


 にこやかにそう言うジョンの言葉に、一郎は暗い顔をして俯いた。すすすと隅っこに移動し、壁に向かって体育座りをした。そして、指でのの字を書き始める。


「どうせ……私は顔だけで採用されたよ……。若い女の子相手なら、顔が良い奴が良いだろうって、それだけで決まったよ……。それでも、国家公務員だし頑張ろうと思っていたのに、女の子をたぶらかすことしか期待されていないのに、これでアメリカに持って行かれたなんてなったら、私は定年まで倉庫整理とか窓際とか確定だし……というか、今まで女の子に縁のない生活してたのに、どうやってたぶらかせっていうんだよ……」


 ぶつぶつとネガティブな事を呟きながら、一郎は戻って来る気配を見せない。夏月は、今の状況について何も理解していないが、、一郎が可愛そうだと言うことだけは分かった。


「あ、あの……」


 小さな声で一郎に話しかけようとした香月の言葉を遮るかのように、突然何かを叩く音が響いた。夏月、一郎、ジョンが一斉に音のした方を見る。テーブルの上に拳を置き、怒りに震えている秋月の姿があった。


「えーと佐藤さん?」


「鈴木です」


「失礼。斉藤さん。貴方の事情はどうでもよいです。詳細をお願いします」


 妙に迫力のある秋月の様子に、間違えられた名字を訂正する事を諦め、一郎はすぐにテーブルの横に戻ってきた。


「とりあえず、詳細を……」


「あ、はい。えーと、神様から連絡がありまして……」


「それは聞きました。というか、どうやって連絡が?」


「メールです」


 一郎が即答した答えに、秋月はがっくりと肩を落とす。


「各国の主要機関にメールで連絡が来ました。最初はどこもいたずらだと思っていて相手にしていなかったのですが、何度もメールが来て、そのうちに添付ファイルが付いてくるようになったんです」

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