第14話 June暗いと
中間試験は無事、乗り切れた。
年洋はいつもよりもいい点数が取れていた。これは佐里さんたちと勉強した成果だろう。今後も機会が有ればやっていきたいと思う。
亜優ちゃんも、平均に近いかなーぐらいまでは上がったらしい。亜優ちゃんは「夢かと思った」と話していた。夢じゃ無いよ。現実だよ。
佐里さんは上位に入る勢いだったという。もうちょっと上だと思っていたらしいが、年洋から見たら十分だと思う。
どうでもいいが、天瑠はいつも通り赤点回避するレベルの点数だった。
勉強しない天瑠曰く、
「テストの解答なんてフィーリング」
だそうだ。それで赤点を取らないのだから、逆に凄いと思う。
亜優ちゃんも部活が再開し、また年洋と佐里さんの二人で登下校する日常が帰って来る。
そして月が変わって六月。
梅雨は平年よりも少し早めに入った。七月中旬から下旬にかけて、どんよりとした空模様が続く事になる。
これに加えて六月は祝日が無い。それが鬱蒼とした気分を加速させるのである。
天気は今日も雨。
雨、雨、曇、雨。
気分も天候も優れない。
これでは、学校へ向かう年洋と佐里さんの足取りは重いというもの。
「今日も雨ですね」
「そうね……」
今日の佐里さんは元気が無いというか、覇気が無いというか……。
いや、『今日の佐里さんは』ではない。『今日も佐里さんは』だ。
ここ数日は、明らかに元気が無い。ここ数日は……雨が続いているぐらい。
「雨、いつまで続くんですかね」
「――私、雨嫌い」
佐里さんは言い捨てる。
いつもと違う雰囲気の佐里さん。年洋は怖くて理由を聞けなかった。
それから数日。
佐里さんの様子はコロコロ変わる。
曇の日は、いつもに近い佐里さん。
雨の日は、憂鬱の佐里さん。
晴れの日? 最後はいつだったかな?
とにかく、佐里さんが元気の無い原因は雨だ! もはや疑いようが無い。
雨に何か嫌な思い出がある。そう考えるのが普通だ。
しかし、あの様子の佐里さんには直接原因を聞けない空気が有る。
(どうすれば…………あっ!)
一つだけ、手があった。
その夜。
年洋は二階の自室で時を待っていた。
部屋の真ん中で正座。
今か今かと、待つ。
時間が経つのが非常に遅く感じる。時間的にはそろそろのはずだが……。
「年洋ぉー! 年洋ぉー!」
下から母ちゃんの声がする。
来た!
「カワイイ子が来てるよぉー」
年洋が一階に降りると、母ちゃんはニヤニヤしていた。
「毎朝来てるキレイな子だけじゃなく、カワイイ子とまで仲良くだなんて。やるじゃなぁい」
玄関には制服姿の亜優ちゃんが立っていた。学校帰りに寄るよう、伝えていたのである。この前家に行った時に連絡先を交換していたのが役に立った。
「佐里さんの妹だよ」
「姉妹両方狙ってるの? お盛んなこと」
「ちげえよ」
「なんの用事ですか? 先輩」
「訊きたい事が有るんだ。部屋に上がって」
年洋は亜優ちゃんを連れて自室へ戻る。
部屋に入ると、亜優ちゃんは興味津々で部屋を見回していた。事前に少し片付けてて良かった。
「先輩の部屋、初めて来ました」
「……そういや、佐里さんも来た事無いな」
「ぼくが初めてですかぁ?」
亜優ちゃんはちょっと嬉しそう。
「ところで、なんの用事ですか? ――ハッ! まさか部屋に連れ込んで、ぼくにエッチなことを……」
亜優ちゃんは驚いた表情で一歩後退る。
「いや、そう思うなら、なんで来た?」
「え? 先輩に呼ばれたからですよ」
素直すぎる……。亜優ちゃんは将来悪い人にダマされないか、年洋は少し心配になる。
「でも、先輩がお姉ちゃんじゃなくて、ぼくを選ぶなら……」
亜優ちゃんの潤む瞳に、小さくかわいい唇。
(あれ? いつもと印象が違う……)
年洋の気持ちが傾きかけるが、
「冗談ですよ! 冗談! 先輩、信じてますから」
それは嬉しいのやら、悲しいのやら。
男として見られていない証拠かもしれない。
「それに、お姉ちゃんの方がいいでしょ? 先輩も」
と訊かれるが、
(どちらかと言えば日花さんの方が……)
とは言えない空気。
にしても、前もそうだったが、亜優ちゃんは自分の評価が低い気がする。亜優ちゃんかわいいんだから、もっと自信持っていいのに。
「で、なんの用事ですか?」
本題に入る。
「佐里さんが最近元気無いから、気になって。五月病を乗り越えた人がかかる六月病かと思ったけど、違うみたいだし」
「六月病とかあったんですね。さすが先輩、物知りです!」
「それが面白いことに七月病、八月病、九月病と続いていって、○月は○○で病めるぞー! 状態――って、それはどうでもいいとして、佐里さんは『雨が嫌い』って言ってたから、雨に関わる何かがあったのかなって。佐里さんには訊きにくいし、佐里さんの前でも訊きにくいから、亜優ちゃんをこっそりウチに呼んだんだけど」
「あー……」
亜優ちゃんの様子が変わった。
「お姉ちゃん、ウチでは普通っぽく振る舞ってますけど、外では隠しきれなかったんですね」
そう言うと、亜優ちゃんは正座になって姿勢を正した。
そして深々と頭を下げる。
「まずは先輩、ありがとうございます」
「なにが?」
いきなりお礼を言われても、思い当たる節が無い。
「お姉ちゃんのことです」
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